10年、「iPad」が華々しく登場したとき、作家の村上龍氏が自ら電子書籍の新会社を設立し、これに瀬戸内寂聴さんなどが参加して話題になった。しかし、実際に「iPhone」「iPad」で売れていたのは、こうしたエロコンテンツだったのである。その意味で、当時盛んに言われていたビオトープだの、キュレーションなどという言葉が、私には虚しく聞こえた。
私は開き直って、そうした読者のニーズに応える電子書籍をつくってみることにした。実話雑誌の知り合いからそれに使えそうな読み物、連載などを集め、その中で、AVから人気女優となった、みひろさんの『みひろの「私にもイカせて」相談室~誘惑キャバ嬢編~』『 みひろの「私にもイカせて」相談室~妖精編~』の2巻、同じくAV女優の瑠川リナさんの『瑠川リナの「もっとイキたい」相談室』、『女医が教える最高のセックス~もうワンパターンとは言わせない~』(ミナミ・リエロ)などを出した。
売れるのは85円本ばかり
これらは、みな発売後1週間ほどで「iPhoneアプリランキング / App Store」で第1位を獲得、すぐに1万ダウンロードを超えるヒットとなった。特に『女医が教える』は二番煎じの企画で紙はほとんど売れなかったが、アプリ書籍では20万ダウンロードまで行った。
この体験は強烈で、「これが電子書籍の世界」だと言うしかなかった。ただし、アプリ書籍は単価が安く、紙の本の同じ部数と比べたら、圧倒的にリターンは少なかった。
次のリストは、12年12月5日の最新の「iPhoneアプリランキング / App Store」ランキング上位である。これを見れば、この市場が、一般の紙の書籍市場とまったく違うのがわかるだろう。しかも、ここにある本には、有名著者は米山公啓氏以外はいないうえ、版元も一般の紙の出版社は顔を出していない。しかも、価格はすべて85円である。これは、100位まで見てもほぼ同じだ。
1、誰とでもスラスラ話せる会話術
(米山公啓/Hideki Kato)85円
2、たのしい雑学読本
(坪内忠太/Yasushi Yokota)85円
3、男と女のモテ会話術
(長住哲雄/ Jirou Aimoto)85円
4、仕事ができる人の習慣―働く人すべてに共通する成功仕事術
(中島孝志/Hideki Kato)85円
5、女医から学ぶ あなたの魅力が10倍増すセックス
(山下真理子/アドレナライズ)85円
6、使える笑える 裏ワザ大全 完全保存版
(河元智行/LEED Publishing)85円
現在、アップストアの単体アプリの電子出版市場は、あまり知られていない著者やライターが書いたハウツー本、エロ系コンテンツで埋め尽くされており、そのほとんどが85円だ。
しかも、一般版元は参加せずという状態になっている。版元名が「Hideki Kato」のような個人名になっているのは、アップルが1つの登録アカウントに対して10も20も認可しないため、制作会社が個人名でいくつものアカウントを登録しているからだ。
また、日本だけでなく、香港などの海外にアカウント登録し、そこから単体アプリを出している例もある。アップルはまだ「iBook Store」の日本版を開いていないから、こうした単体アプリによる電子出版は当分続くだろう。
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