キンドルでさえも、ガラパゴスの罠にはまる

なぜ日本は「電子書籍の墓場」なのか(下)

次は、(5)の紙と電子で価格が異なるという「価格決定権」の問題だが、これについては、前回の記事でも触れたので、簡単に説明する。

電子書籍には、紙の書籍と違って定価がない。紙の書籍は再販売価格維持制度(再販制度)によって義務づけられた定価販売商品だが、電子書籍は自由価格商品である。だから、野菜や肉などの食料品と同じように、店によって価格が変わる。バーゲンセールのような割引販売も可能だ。

しかし、日本では、自由価格といっても、小売り側が価格をつけることは事実上不可能になっている。

卸売り側(つまり出版社)が価格決定権を持つ契約を「エージェンシーモデル」と言い、小売り側(アマゾンなどの電子書店)が価格決定権を持つ契約を「ホールセールモデル」と呼んでいる。現在、アメリカでも日本でも、この両方のモデルで電子書籍は販売されている。

ただ、アメリカでは当初、アマゾンが「ホールセールモデル」で出版社と契約したため、電子書籍の価格は紙に比べて圧倒的に安くなった。しかし、日本では、収益が減るのを恐れ、「エージェンシーモデル」で契約する出版社が多い。たとえ「ホールセールモデル」で契約しても、出版社が「希望価格」を出してきて、電子書店側は、それをのむかたちになっている。これでは電子書籍は売れない。

自分で電子書籍を売ってわかったこと

たとえば、米国アマゾンの「キンドルストア」に行き「キンドルイーブックス」のトップ10のタイトルを見ても、ほとんどの書籍が9.09ドル か7.99ドルで売られている。ハードカバーで25ドル以上する本でも、売れ筋のものには、こうした激安価格がつけられている。また、短編記事や短編小説、小冊子などのショートコンテンツを集めた「キンドルシングルズ」のトップ10は、1.99 ドルか2.99ドルばかりだ。

結局、こうした値段でないと、電子書籍は売れないのだ。

日本でも、現在、アップルの「App Store」に並ぶ単体アプリ型電子書籍は、トップ100までいってもほぼみな85円である。私は小さな出版プロデュースの会社をやっていて、そこでは電子書籍も制作しており、一昨年からこの市場に参入している。

そうしてみてわかったが、この市場ではともかく安くないとユーザーに見向きもされない。一時は170円、250円、350円でもある程度売れたが、今では85円にしないと、どんなコンテンツでも売れなくなっている。

つまり、電子書籍というものは、ウェブ特有のフリーミアム文化(コンテンツはタダで手に入る)の影響が大きいのだ。この文化の中では、紙と同じような価格では売れない。紙と大差ない値付けでは、市場ができないと思っていい。

とすれば、新書や文庫本などは、100~200円がウェブ文化から見た妥当な価格だろう。しかし、この価格を今の状況で出版社は付けられるわけがない。

まして、期間限定のバーゲンセールなどできっこないだろう。

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