日本人が語らない「お金を稼ぐことは健康的」 出口氏と同性婚カップルが語る「現実」

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出口:ライフネット生命のプロジェクトチーム内でも「自治体の証明書を使えば簡単」という議論はありました。ただ、困っている人にサービスを届けるという本質的な部分に立ち返ると、「異性の事実婚と同性婚では究極的には何が違うのか」「インターネットを使って全国に広く生命保険を提供する当社が、地域を限定してしまって本当によいのか」という話になり、何度も議論を重ねました。モラルリスクをどのように上手に排除して、それでなおかつどのように広く社会のニーズに応えることができるのか、と。

また、一人暮らしの高齢者の方が増えてきて、保険に限らず、自分のおカネを本当にお世話になった人に残したいという話をよく耳にします。そのようなお気持ちは、とてもよくわかります。

増原:はい、おカネを残したい人が血縁者とは限らないんですよね。

出口:動物の実験でもある程度わかっているのですが、血縁関係と親子の絆は、あまり関係ないそうです。小さいときからきちんと育てていれば、話さなければ血縁があるかどうかは気がつかない。

増原:誰がいちばん長い時間一緒にいて、面倒を見てくれるかですよね。

:つまり、親という機能の問題ですよね。本当にそうだと思います。

出口:そういう意味では、この同性パートナーの保険の話は、性的マイノリティの方だけの問題ではないと思ったのです。この前、コレクティブハウスで講演会を開いたとき、シングルマザーの方もたくさん来てくださいました。彼女たちが忙しく働いていた時に、保育園から「お子さんの体調が悪いのですぐ迎えにきてほしい」と連絡がきたが、仕事がたくさんあって、とても迎えにいけない。そこで、コレクティブハウスのネットワークにSOSを出したら、「じゃあ僕が代わりに行くよ」と言ってくれる人がいた。そういう現状があることを知りました。

その人が一緒に住んでいることは地域では誰もがわかっていることなので、保育士も「誰々さんならOK」と、お子さんを渡す。働いているお母さんはとても助かります。このように血縁がなくても、子どものケアをする仲間という認識はできるのです。コレクティブハウスでなくても、たとえば半径500メートル以内に住んでいるお年寄りが友達同士のバーチャルな共同体を作るとか。いろいろ面白い世界がこれからはできてくるような気がします。

人間の自由とは、逃げ出す自由

出口:話は変わりますが、「世界連邦政府は絶対に作ってはいけない」という哲学者がいます。お二人はその理由がおわかりになりますか? 僕は学生の頃、「国連が発展して世界連邦政府ができればいいな。戦争もなくなるし」と思っていたのですが。

増原:うーん、なんでしょうか。

出口:とても簡単です。理由は、世界連邦政府の方針に反対だったとき、亡命する場所がどこにもなくなるからです。

増原:ああ、なるほど! そこでしか生きられないわけですものね。

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