「初音ミク」現象が拓く“共感”力の新世界 伊藤博之・石川康晴・猪子寿之 特別鼎談
猪子 もはや、以前のビジネスモデルには100%意味がない。ネット社会はユーザーが中心で、すべてのユーザーが表現者。しかも表現は単なる消費よりはるかにエンターテインメント性が高いので、当たり前のようにそっちに移っていく。
カラオケで歌われる曲も、今はAKBか初音ミクですよ。今までのモデルとは違うモデルから出てきたもの、ユーザーが自由に扱えるものにしか興味がない。40代以上の方は青春のすべてをマスメディアとともに生きてきたので、マスメディアも惰性として残るかもしれないけど。
石川 15~18歳の人たちに「昨日見たのはテレビか、ニコニコ動画か」と聞くと、答えの6割がニコニコ動画です。半年前の調査なので、今は8割ぐらいかもしれない。これまでの延長線上でビジネスモデルとかプロモーション戦略とかを考えても何にもならないし、大義もない。
宮崎あおいをCMキャラクターに起用したときは、大手広告代理店と組みました。だけど、今回、ジャパンレーベルを展開するに当たって、大手代理店と組んだら、絶対、うまくいかないと考えた。彼らは理解できないから。理解できない人たちと組んだら、ユーザーに理解できないものが届いてしまう。
猪子 初音ミクというのは非実在ですよね。ネットは非実在と圧倒的に相性がいいんです。テレビはカメラで撮るから、実在と相性がいい。『タイタニック』の主人公はディカプリオでなければならないし、ディカプリオは実際に存在している。お笑いのヒロシがマライア・キャリーの変装をしても、ただの偽物だよね。
非実在になった瞬間、ネットで表現できるんです。ユーザーが表現の担い手になれる。自分が作った初音ミクが本物の初音ミク。どこにも偽物がない。だから、感覚的にも自由ですごいものが出てくるというか。