「初音ミク」現象が拓く“共感”力の新世界 伊藤博之・石川康晴・猪子寿之 特別鼎談
──コラボの提案を伊藤さんはどう受け止められたのでしょう。
伊藤 僕ね、アパレルとかすごく疎い。テレビも見ないので。でも、カミさんがクロスカンパニーのブランドをよく知っていた。カミさんのようなまったく普通の人にリーチできるブランドとコラボできるという広がり感。すごくワクワクしました。
放っておくと、初音ミクは秋葉原系とかオタク系とか、そっちの文脈に引っ張られかねない。そういう閉じたモチーフにはしたくないと思っていますので、一般の方々に訴求できるアパレルとの取り組みはすごくウエルカム。一つの試金石としてこの先の展開を楽しみにしています。
──猪子さんが初音ミクとクロスカンパニーを結び付けた仲介者だとか。
猪子 僕ね、初音ミクの熱烈なファンなんです。最初のヒット曲『みくみくにしてあげる♪』を見て泣いちゃったくらい。やっぱりこう、ポップ音楽をやろうとしたら、メインはボーカルですよね。ダンスミュージックのようなテクノは、1990年ごろにコンピュータ、シンセサイザーが出てきて、誰もができる、みんなのものになった。でも、ポップをやろうとしたらボーカルが必要になる。カワイイ子に歌わせなきゃならない。
だけど、知り合いにそんなカワイイ子なんていないじゃないですか。スタジオを借りるカネもないし、アウトプットするところもない。だから、ポップはずっと音楽業界の一部の人たちのものにとどまっていた。
それを(歌声合成ソフトの)初音ミクが変えた。自分が作った曲をミクが歌い、踊ってくれる。ポップは初めてみんなのものになった。
たとえば、インターネットが出た瞬間って、人類、感動したじゃないですか。限られた人間の特権だった情報の受発信が、みんなのものになった。
初音ミクもそう。『みくみくにしてあげる♪』の「科学の限界を超えて私は来たんだよ」という歌詞なんて、表現する自由を得た人間の感動がそのまま出ている。それで何か感動して泣いたんですね。