「初音ミク」現象が拓く“共感”力の新世界 伊藤博之・石川康晴・猪子寿之 特別鼎談
初音ミクが掘った井戸 来るべき“共感社会”
伊藤 僕の意見としては、クリエーターが関心を持っているのは、見る人・聞く人をいかに共感させるか、だと思う。グッとくるとか、ピンとくるとか。僕たちは日々、共感を消費して生きている。普通の消費よりそちらのウエートのほうが大きくなっている。クリエーターも共感させるためにコンテンツを作っている。
──N次創作の過程で交わされる「使います」「ありがとう」という言葉。「共感のつながり」を感じます。
伊藤 初音ミクに限らず、ネットで起きているのは、いかに共感を作るか、というボトムアップの大きなムーブメントだと思う。だから、言ってしまうと、共感を作れない会社はこの先、未来がないんじゃないか。
会社の価値は株式の時価総額で測られているが、「共感総額」=1年間でこれだけの共感を生み出したという指標、が出てきてもいい。従来は共感を測ることができなかったけど、今は再生数とかリツィートの数とかがバロメーターになりうる。
石川 クロスカンパニーも利益以外の価値の測り方を模索しています。人類、社会、経済の三つのバランスを測りたい。なるほど共感度という概念はあるかな、と思う。
僕がいつも社員に言い続けているのは、お客だけ見ていればいい、ということ。お客の目がファッション誌をとらえているならファッション誌だし、お客が共感に引かれているのなら、共感でなければならない。
初音ミク的なものはこれからも出てくると思うが、共感という新しいビジネスモデルの井戸を掘ったのが初音ミク。今、そこに一緒にいることができて、会社の寿命は5年くらい延びた、と思う。でも、ほとんどの会社がたくさんの若いお客さんを失っているんじゃないかな。新しいモデルに共感できず、それを理解できる社員もいないために。