「盛れてる」と「盛りすぎ」には境界線がある 「シンデレラ・テクノロジー」とは何か
「日本の美人画はどれもデフォルメされていて、同じ時期の美人画を何枚も幾何学的な特徴のみで見比べると、違う絵師が描いているのに、素人にはそっくりな顔をしていることが多いです。目の位置がそっくりに描かれていたり、顔の形も似ていたり。人間の顔は多様なはずなので、時代ごとに美人の基準顔のようなものがあったのではないかと予想しました」
「たとえば、江戸時代であれば、面長でつり目で寄り目。顔の各パーツにいくつもの特徴点を打ち、実際の人の顔の特徴と、各時代の美人画の基準顔とのズレを計測し、前述の構図の研究と同じような方法で3次元空間の歪みに変換すると、紙を折るというシンプルな方法で、今の人の写真を各時代の美人顔に変換できることがわかりました。具体的な作品の顔に近づけるならば、時代ごとの折り方をベースに、折り角度を調整していきます。そこに、それぞれの絵師の個性が表されていると考えることができます」
8世紀から現在までの美人画に描かれた顔の幾何学的な特徴で分析すると、8世紀、17世紀末、1900年代、1950年代という4つのターニングポイントで美人顔の条件が変化してきたことがわかった。そして、興味は現代のギャル文化に向かう。化粧やつけまつ毛などの「プラスチック・コスメ」、プリクラの画像処理などによって、「自分の外見を加工し、そっくりに見える現代の女の子たちの顔は、浮世絵の延長にある」と考え、スタディを開始した。
注目されるためのシンデレラ・テクノロジー
「古くから、神事で不特定多数の人々の前で歌や踊りを披露する巫女さんは、強い化粧で素顔を隠していたといわれています。そして、平安時代の貴族の女性は濃く化粧することを強いられていましたし、江戸時代の遊女も白塗りをして素顔を隠していました」
「美人画の研究をしていた2006年頃はいわゆるギャル文化が全盛で、街を歩く現代の若い女の子たちも強い化粧をして、皆そっくりな顔に見えました。日本では古くから、不特定多数から見られる若い女性が強い化粧で素顔を隠す文化があり、現代のギャルもその延長にあるのではないかと思いました。そこで、現代の女の子のデフォルメについて研究したいと思うようになりました」
そこでひとつのキーワードに出会う。「盛る=外見をよく加工すること」。そして、理想的に「盛る」ことができた状態の「盛れてる」。その「理想的に」という部分は、常に変化する。時代ごとのトレンドがあり、また、その本人に合っているかどうかも重要だ。時代遅れになっていたら「ダサい」し、自分に合っていない加工をしていたら「イタい」。理想的な状態に自分の外見を加工し、不特定多数に向けて公開するための技術を久保は「シンデレラ・テクノロジー」と定義した。
「シンデレラ・テクノロジーは外見を加工する技術なんですけど、同時にコミュニケーション技術でもあるのです。自分だけが目立とうとするというよりも、女の子たちのコミュニケーションの中で美の基準が生まれていて、その中で自分らしい“盛れてる”を実現しようとするわけですから」
そのコミュニケーションの場においては、バーチャルな世界も大きな比重を占めている。