2006年3月、山口絵理子が24歳のときにたったひとりで立ち上げたファッションブランド、マザーハウスはこの10年で大きく成長を遂げた。
現在、国内に17店舗、台湾と香港に計7店舗を構え、創業時からの主力商品であるバングラデシュ産バッグのほかに、ネパール、ラオス、インドネシアの固有の素材や伝統技術を用いた商品の製造販売も手掛ける。バングラデシュでは160人の従業員が働く自社工場を運営し、ネパールでは家庭内手工業が中心ながら、100人を超える人が生産に携わる。
いまや新進のアパレルブランドとしての地位を確立したように感じるが、驚くのはいまだに現地に出向いた山口が素材や技術、職人を発掘することから、すべての商品が生まれていることだ。彼女は経営者、チーフデザイナーとしてすべてのプロダクトの製作にかかわり、埋もれた可能性を求めてアジアの途上国の僻地を歩き回っている。
“外れ値”の人に感じるシンパシー
「何か計画ありきというより、まずは現地に行ってみるのです。そこで眠っていた光を見つけて、その素材がいちばん輝ける形って何だろうって方程式を考えるのがすごく楽しい」と笑顔で語るが、山口が求めているものは、途上国のなかでも近代化から取り残されたような地域にあるため、コンタクトするのも簡単ではない。おまけに、方程式の解を得ても、ビジネスにするまでの間には幾多の困難が待ち構えている。頻発するトラブルや取引相手の裏切りに泣き明かしたことは数知れない。
なぜ、そこまでして途上国の人々や技術にこだわるのか? 何に惹かれているのか?回答は、正義感や義務感といった “社会起業家”らしいものではなかった。山口は、「シンパシー=共感」だと答えた。
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