「盛れてる」と「盛りすぎ」には境界線がある 「シンデレラ・テクノロジー」とは何か

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「海外でも日本文化のたとえば“侘び寂び”や“禅”などは注目されていますが、具体的に理解されていないと思います。理解できないところがエキゾチックで良いということもありますが、工学の研究者としてそれを論理化して、道具に内在化して、広める役目を自分が担えないかと考えて、日本文化を定量的に分析する研究を始めました」

「間」の幾何学的法則を見出そうとしたり、「おもてなし」の法則をゲーム理論で導こうとしたが、うまくいかなかった。そうして取り掛かった題材が、日本画だった。絵巻物や浮世絵など、日本の伝統的な絵画はデフォルメ表現を基本としており、透視図法などを駆使した写実表現はあまり採用されてこなかった。日本画に見られる「透視図法に対するズレ」はどの程度なのか? 時代ごとの絵画を測定してデータを蓄積することで、デフォルメされた手書き表現を3DCGで表現するメソッドの構築をテーマに博士論文を書いた。

美人画に描かれた女性の時代性

紙を折ることで、現代女性の写真を、各時代の美人顔に変換できることがわかったという

内容を抽象化して、モデル化していく。そうすることで、計算式が当てはめられて再現性が見えてくる。それが工学のおもしろさだ。

「昔の絵巻物や浮世絵を見ると透視図法が使われていないように見えますが、実際は1739年に透視図法が日本に伝来したと言われていて、一時期は透視図法を駆使した浮世絵もたくさん描かれていたのです。でも、1800年代の頃からそういった絵は減りました。絵師はおそらく、敢えて透視図法に従わずに絵を描いたのではないかと思うのです」

「その“透視図法に対するズレ”は、日本の文化の尺度のひとつだとみなしても良いのではないかと仮説を立てました。そのズレを3次元空間の歪みに変換するプログラムを作り、写真を何年代風の浮世絵にするだとか、浮世絵を3DCGの描写にするだとか、そういったことを可能にするソフトウェアを作りました。日本の文化の曖昧なところに工学的なアプローチで立ち向かうことを、なんとかひとつの形にしたのが、その研究でした」

次に目をつけたのが、美人画だった。7世紀末から8世紀初めにかけて制作されたと推定される高松塚古墳の女子群像壁画が最古とされる日本の美人画の歴史。以後、現在までの1300年ほどをたどると時代ごとに美人画の顔の傾向があり、そのデフォルメの尺度が変遷をたどっていることが見えてきた。

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