「許された危険」は高齢化時代に様変わりする 認知症患者の事故に、受験生が学ぶべきこと

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新聞報道によれば、判決について鉄道会社の間では「認知症の人による事故の場合、事故の損害は鉄道会社の社会的責任に含めるべきだ」と、納得の声があったとのことである。これは非常に興味深く、同時に、良識ある見解であるように思われる。

とはいえ、これですべてが解決されたわけではない。少し問題を変えてみよう。たとえば、この認知症の男性が街を徘徊し、何の罪もない一般人を凶器で傷つけた場合はどうなるのか。この場合、両者間の立場に大きなギャップがないゆえに、扱いが難しくなる。「許されない危険の改善」という議論も出てこない。一方このようなケースで認知症患者の家族が何ら責任を問われないとしたら、これまた直感的に不条理を感じるだろう。

これは単なる試験問題ではなく、これからの社会で実際に起こりうる問題である。そういった事象に普段から思いを馳せ、自分なりに考えを深められる学生こそ、将来の医者候補として、大学に嘱望されているのである。

本質論からの考察を放棄してはいけない

ところで、今回取り上げた問題に「保険に加入していれば、どちらが損害を負担するにせよ、損害を担保できる」と答えた学生がいた。確かに、この仕組みならば発生した損害の引受先がひとまずは存在することになる。

しかし、この回答は社会の動向や、それを踏まえた上で個人と社会のあり方を考える視点が希薄になりかねない。素晴らしいシステムに寄りかかるだけでは、本質的な解決にはならない。

また、生じるリスクを社会全体でどう負うべきかの議論を後退させかねないと、私は思う。本質論からの考察を放棄せず追求するならば、われわれはカンカンガクガク、望ましい社会のあり方について議論を重ねるべきなのかもしれない。

医学部入試に関する情報は小林公夫オフィシャルサイトでも随時紹介しています。参考にしてください。

 

小林 公夫 一橋大学博士、作家

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こばやし きみお / Kimio Kobayashi

専門は医学と法、生命倫理学。現在は生殖医療や実験的治療行為など先端医療の研究に従事している。研究の傍ら、医学部受験生の指導にあたり、医学部受験予備校インテグラ、医学部&東大専門塾クエストで、医学概論、医学部生物学、医学部小論文・面接などを指導。著書多数。代表作にシリーズ累計21万部突破の『「勉強しろ」と言わずに子供を勉強させる法』『新「勉強しろ」と言わずに子供を勉強させる法』「オトバンクFeBe版勉強しろと言わずに子供を勉強させる法」(PHP研究所)、『わが子を医学部に入れる』(祥伝社新書)などがある。『医学部の面接 [3訂版](赤本メディカルシリーズ)』、『医学部の実践小論文 [改訂版](赤本メディカルシリーズ)』(教学社)は医学部受験生のバイブル。医学部入試に関する情報はオフィシャルサイトにも掲載している。

 

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