世界遺産で見る、宗教で栄えた国・滅びた国 神とカネによる王朝の興亡を読み解く!
③紫禁城 ~「教え」が招く失敗
ピラミッドやアンコール遺跡群は、宗教が経済を牽引した成功例として、今日に残っている遺跡ですが、宗教によって、国が崩壊した失敗例として残る遺跡もあります。その代表が北京の紫禁城です。
「紫微垣(しびえん)」が治める大地
紫禁城は15世紀以降、約490年間、明、清王朝時代の王宮でした。現在では、「故宮」と呼ばれます。世界五大宮(ヴェルサイユ宮殿、バッキンガム宮殿、ホワイトハウス、クレムリン宮殿)のひとつに数えられます。約72万㎡、東京の皇居の約3.5倍に相当する広大な敷地に、9000近くの部屋があります。
中国では、北極星を「紫微垣(しびえん)」と呼びます。絶対中心・動かざる天を意味する「紫微垣」から、「紫」は皇帝を表す文字となります。皇帝の宮殿を表す「紫宮」と、庶民の立ち入りを禁じた「禁地」を重ねた「紫宮禁地」から、紫禁城と呼ばれるに至ります。紫禁城で、皇帝は絶対権力を行使し、中国全土に指令を発しました。
明、清王朝は儒教を国の宗教として定めました。儒教は、君主と臣下のわきまえるべき分を説く「君臣の別」と呼ばれる考え方を持ち、臣下に絶対的な服従を求めます。この考え方は、中国を中心とする周辺諸国に対し、中国への服従を求める中華思想として強化されていきます。
交易のチャンスを逸す
紫禁城の中央に、太和殿、中和殿、保和殿の三大殿が並び立ちます。太和殿は三大殿の正殿で、歴代皇帝の即位式をはじめとする宮廷の重大な式典を行った場所です。式典が行われる際、太和殿前の広場に官吏たちがずらりと並び、一斉に「三跪九叩頭の礼」を行います。映画『ラストエンペラー』に、幼少の溥儀の即位式の壮麗なシーンがあります。
「三跪九叩頭の礼」とは、臣下が皇帝に対面するとき、3度跪き、そのたびに3回ずつ頭を床につけて拝礼するという儒教的な儀礼です。
18世紀に君臨した乾隆帝は、イギリスから交易を求めてやってきた使節に「三跪九叩頭の礼」を求めます。しかし、イギリスの使節はこれを拒否し、乾隆帝の不興を買います。
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