世界遺産で見る、宗教で栄えた国・滅びた国

神とカネによる王朝の興亡を読み解く!

②アンコール・ワット ~投資先は寺院

カンボジアのジャングルの奥深くにある世界遺産、アンコール遺跡群にもそうした面があります。

アンコール・ワット寺院を中心に、9~12世紀に建立された大小合わせて数百の寺院の遺跡が残っています。それらの寺院の中に、女神像の浮き彫りなど、ヒンドゥーの神々やその世界観を表した彫刻・壁画が無数に存在します。

アンコール遺跡の神々の像は、昔から、盗掘で国外に持ち去られてしまい、巨額の金で闇取引されています。フランスの文学者アンドレ・マルローも、そのような盗掘者のひとりで、1923年、アンコール遺跡群のひとつ、バンテアイ・スレイ寺院の女神像を持ち去ろうとしたところを逮捕されています。女神像の美しさが、人の理性を失わせるのです。

12世紀前半、アンコール・ワット建設の大プロジェクトを遂行した国王スールヤヴァルマン2世は、約1万人を35年間に渡り、雇い入れました。彼ら従事者とその家族に充分な食糧を提供するため、大水田も開発されます。アンコール遺跡群の周辺には、貯水地や水路など、当時の高度な水理技術をうかがわせる跡が残っています。

豊富な食糧生産は都市人口の増大をもたらし、最盛期には約40万人が王都アンコールで暮らしていた、とされます。

投資と結び付いた宗教

宗教は人々の畏敬の念を集めるために、見る者を圧倒する荘厳な建築物の造営を必要とします。建築が公共事業としての意味を持ち、建設従事者の大量動員などで、農業、産業、商業に到る経済圏の拡大が生じ、経済成長の恩恵が人々に実感されて、宗教は持続可能なものとなります。

アンコール・ワットのような巨大寺院は単なる宗教的な施設というだけでなく、まして王族たちの道楽や贅沢品では決してなく、経済成長を促進するための必要不可欠な起爆剤でした。

成長の波及効果を見込んだ富裕層は、積極的に寺院建設に「投資」(=寄進)します。寄進によって、王朝からさまざまな商業的な利権や土地開発・開墾の認可権を与えられる見返りで、中世カンボジアの「投資」経済が巨額のリターンを求め、縦横に駆け巡っていました。

「投資」は宗教的な一体性のなかで、高い信用により支えられ、また、そのような出資をすることは功徳として捉えられ、人々の信用を生む要因ともなります。アンコール王朝は宗教によって、マクロ経済の絶え間ない循環を生み出すことに成功した典型的な例と言えます。

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