神野は「山の神」として注目を浴びることが、当初は素直にうれしかったという。同時に、「重圧もあったんです。周囲の期待に応えないと、という思いが強くなって、心と体がかみ合わない状況でした」とその“呪縛”も感じていた。
そして、全日本後に左スネを負傷。最後の箱根駅伝を前にして、大ピンチを迎えた。
「いちばん落ち込んだのは11月中旬ですね。全日本が終わって、またケガをしてしまい、すぐに治るだろうと思っていたのに、時間がかかった。一時は良くなる見込みが全然なくて、あきらめの気持ちが強くなったんです」
神野の気持ちは切れかけていた。しかし、原晋監督はあきらめていなかった。「山は適性の部分が大きい。12月に練習を再開できれば絶対に走れるぞ」と神野に声をかけて、エースの復活をギリギリまで待つ覚悟を決めていたのだ。
「監督の言葉を信じて、最後までやろうという気持ちになったんです。箱根駅伝にかけられる時間は、1カ月ちょっとしかなかったんですけど、後悔のない努力をしようと思って、取り組みました」
12月に入り、どうにか練習ができるようになり、完全に痛みが消えたのは12月20日頃。12月29日の区間エントリーでは、5区に「神野大地」の名前が書き込まれた。「ギリギリの状態でしたけど、どうにか間に合ったんです」と神野は振り返る。だが、筆者は、この起用は危ないんじゃないかと思っていた。
箱根駅伝5区は“魔の区間”
箱根山中で止まるのではないか。筆者はそんな心配をしていた。5区が最長区間になって、前回までに10大会が行われ、その間に3チームが“魔の山”に飲み込まれている。途中棄権は回避したものの、フラフラになってしまう選手も少なくない。それだけ箱根の5区は攻略が難しい区間だ。しかも、優勝を目指す東洋大学と駒澤大学は、1時間19分台を狙えるクライマーを配置しており、神野にかかるプレッシャーは大きかった。
1区からトップを独走した青山学院大学は、2位の東洋大学に2分28秒、4位の駒澤大学に3分59秒の差をつけて、5区の神野にタスキをつなげる。原晋監督が神野に課した目標は、「1時間20分切り」。区間記録(1時間16分15秒)を樹立した前回と比べると物足りないが、過去に15人しか突入していない好タイムだ。
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