広陵いじめ問題が暴いた「高校野球の闇」—美談の裏に隠されてきた“沈黙の構造”
心理的安全性が高い組織では、メンバーはミスや不満、問題行動を指摘することにためらいがなく、結果として問題の早期の是正や改善が可能になる。一方、心理的安全性が低い環境では、たとえ深刻ないじめやハラスメントを目撃しても、それを口にすることが「裏切り」「空気を乱す行為」とされ、沈黙が常態化する。
日本の運動部は、勝利至上主義や上下関係の文化が強く、心理的安全性を意図的に確保しない限り、この沈黙の構造から抜け出すことは難しい。特に、監督や主将が批判や異論を歓迎しない姿勢を示せば、その空気は全員に伝播し、いじめがあっても表面化しない「見えない部活」が出来上がる。
心理的安全性は単なる「安心感」ではなく、問題提起や異議申し立てが歓迎される文化を意味する。これを欠いた部活動では、いじめが発生しても止まらず、今回の事例のように外部に知られるときには既に被害が深刻化していることが多い。
SNS拡散が心理的安全性に与える影響
広陵高校の事例で特に注目すべきは、いじめの存在が部内の声ではなく、SNS経由で初めて公になった点である。これは現代的な二面性を持つ。
一方では、SNSは心理的安全性が低い組織における「最後の出口」となりえる。部内で声を上げられない被害者や関係者が、匿名性を確保しつつ問題を外部に告発できるためである。この意味で、SNSは沈黙を破る有効な手段となる場合がある。
しかし他方で、SNS告発は急激な情報拡散を招き、往々にして不正確な事実を含んで過激化しやすく、当事者や学校に大きな社会的圧力を与える。その結果、事実関係の精査よりも先に世論対応が優先され、関係者の心理的負担や対立が激化する可能性がある。
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