43歳で再就職、ある女性のキャリアの軌跡 女の人生につきまとう「やめスイッチ」

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自宅では、大学生になってそれぞれ商学部と経済学部に進んだ子どもたちと授業の内容について話すという機会もできた。プレゼンを控えてレジュメの準備や前調査で必死になっていると、「今日の夕食は自分たちで用意するよ」と援護射撃を送ってくれることもあったという。

再就職を目指す仲間と同じ目標に向かって走りながら、「自分は社会に対して何を提供できるのか」ということが見えてくるようになった。そして、星野さんは徐々に自信を取り戻していったのだという。

女性たちの熱意に打たれた経営者

プログラムの中でゲストスピーカーとして登壇したのが、星野さんの就職先であるダイヤル・サービスの社長である今野由梨氏だ。1969年に同社を設立し、日本で初めての電話相談サービスを立ち上げ、「ベンチャーの母」とも呼ばれる。受講生たちの大先輩といえる存在だ。

3時間にもわたる今野社長の講演にはすべての受講生が夢中になった。ほとんどの女性が涙を流しながら聞き入ったという。そして、今野氏はそのときに感じた女性たちの情熱に打たれた。

「教えられたのはむしろ私のほうでした。こんなに真剣に学ぼうとしている女性たちがいたのか、と。しかも、もう一度社会に出たいという共通の目的の下で一致団結している女性たち。この出合いは貴重な経験だった。大学生を前にして話すのとはまったく違う。壇上からでも、気の交流ともいうようなものがありました」(今野社長)

講演終了後、今野社長は、受講生の中から数人を自社で雇い入れることに決めた。その1人に選ばれたのが星野さんだ。

星野さんのように、家庭の事情でやむをえず仕事のやめスイッチを押す女性は少なくない。だが、今野社長はこう言う。「挑戦しては倒れ、また立ち上がっては足をすくわれ、それでもなんとかここまでたどり着いたという経験をしている人には強さがある。いろいろな体験をしている人ほど貴重な存在はない」。

離職期間が長くなってしまった女性の再就職は、確かに厳しい。それだけを見て不採用を決めてしまう採用担当者がいまだ多いのも事実だ。だが一方で、女性が企業に勤めて働いていなかった期間は決して空白期間ではないということを知っている経営者も少なくない。
 

宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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