松下幸之助には、人の喜んでいる様を見て喜ぶというところがあった。自分ひとりが喜ぶよりも、他人を喜ばせることに嬉しさを感じているというような人だった。それは毎日会っているような、身近な相手に対しても同じであった。私も、とにかく感動を与えられることが非常に多かった。
私は、だいたい毎日、松下幸之助と会って話をしていた。土曜日の朝、家で寝ていると電話がかかってくる。「いまから、来ないか」と言う。
出かけて話していると、「明日も来いや」となる。平日も、夕方5時ごろになると電話が入り、「いまから来い」と言う。それでバタバタとその日の仕事の後始末をして出かけていくのだが、それからずっと話をしているので、帰るのは夜10時とか11時。深夜になることも度々であった。
食事を一緒にして、その後は深夜まで
たいていは夜7時ぐらいに松下のところに着く。食事の準備をして待ってくれている。一緒に食事をして、会社のこと、仕事のこと、政治のことなどさまざまな話をする。9時ごろになると松下が「ベッドで横になる」と言う。そのとき、私は内心そろそろ帰りたいと思っているので、「じゃ、私はこれで」と言うのだが、松下は「きみ、何か用事があるんか」と訊くのである。夜の9時から用事があるわけもない。「別にありませんけれど、あまり遅くなっても…」と答えると、「いや、わしゃ、かまへんで」。
そう言われると、私はベッドの横の背もたれのない椅子に座って、内心また1時間はここにいることになったな、などと思う。この時間になると、松下との話も雑談になっている。テレビを見ながら「このタレントは誰や」とか、ボクシングで「これはどこの選手や」とか。
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