幸之助は「ちょっとした言葉」が秀逸だった

疲れを吹き飛ばす感謝の言葉と行動

そうこうしていると10時になる。また私が「そろそろこれで」と言うと、「まだいいやろ」と言われる。10時半とか11時になると、なんとか話の区切りを見つけて「じゃ、もう遅くなりましたから、これで失礼します」と挨拶する。さすがに今度は「そうか。じゃ、きみ、帰るか。ご苦労さんやったな」となる。朝8時から1日中PHPの仕事をして、それからまた10時半過ぎまでということだから、たしかにご苦労さんではある。ところが、それからなのである。

松下はわざわざ起き上がる。

私の歳は松下の半分ぐらいで、いわば孫みたいなものである。私が帰るくらいのことなら、松下はベッドに横になったままでいい。それに毎日会って話しているのだ。だから私は「わざわざ起き上がっていただかなくてもけっこうです」と言うのだが、「いや、かまへんで」と言って松下は起き上がる。

ベッドから降りてきて戸口まで見送り

それだけではない。ベッドから降りてくるのだ。私はすっかり恐縮をして「もういいです、もういいです」と言うのだが、すでに80歳を越えている松下が、ベッドから降りて部屋の戸口まで私を見送ってくれるのである。

松下から見れば、私は丁稚のような、ひよこのようなもの。ベッドに横たわったまま「ご苦労さん」となるのが普通であろう。しかし、松下はきちんと見送ってくれる。私はほんとうに恐縮し、それ以上に感激してしまう。

つい先ほどまで、時間が気になり、早く帰ろう早く帰ろうと思っていたのがパッと消えて、疲れもふわっと吹きが飛んで、「ああ、また来よう」と思ってしまう。ところが、まだあるのだ。

ベッドから降りた松下は、部屋の出口までの3メートルほどの距離を歩きながら、いつも「きみ、身体に十分、気いつけや」と優しい声をかけてくれる。

「わしはな、160歳まで生きるつもりやから、そのあいだ、ずいぶんといろんな仕事をやろうと思っているんや。けどな、わしはそれをきみに手伝ってほしいんや。そうしてもらわんと、できへんのや。きみに手伝ってもらわんと、困るんや。きみに手伝ってもらわんとあかんのに、わしより早く逝ったらあかんで」

1日の仕事の疲れは、たいへんな感激とともに、この言葉でいっぺんに吹き飛んでしまったものである。そう言ってもらえたら、先ほどまでの疲れまで忘れて、すっかり気分爽快になってしまう。また明日も頑張ろうと思ってしまう。

こういう日々のちょっとした言葉にも、温かさを感じさせる人であった。

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