
「金融庁が高齢者向けのプラチナNISAの創設を検討」――このニュースを聞いて耳を疑った。さらに驚いたのが、このプラチナNISAでは、高齢者限定で「毎月分配型投資信託」も対象にする方向だということだ。
ご存じの通り、毎月分配型投資信託はNISAの対象外となっている。そもそもNISAの目的は、長期投資で資産をコツコツ積み上げ、将来の大きな資産を育ててほしいというものだ。とりわけ積み立て投資は、元本を運用しつつ、得られた配当や利益も元本に加えて再投資する、いわゆる“複利効果”で資産を増やせば効率的ですよと勧めている。
しかし、得られた利益を毎月分配金として払い出してしまうタイプの投信だと、複利効果は期待できなくなる。それではNISAの目的である資産形成にはそぐわないので、対象外にしたという理屈だったはずだ。
むろん、理由はそれだけではない。2000年代初頭には毎月分配型投信が大ブームとなった。「グローバル・ソブリン・オープン」、通称グロソブと言えば、Z世代の人でも聞いたことがあるかもしれない。当時は、地方銀行や信託銀行が販売窓口となって、高齢者相手に猛烈なセールスを繰り広げていた。
なぜ高齢者が販売先だったのか。そこが「プラチナNISA」がらみで、毎月分配型が亡霊のように蘇ってきた理由を解くカギになる。
年金代わりに毎月もらえるお金の存在
グロソブが高齢者たちにうけたのは、「年金代わり」としての役割を果たせるからだ。生活費である年金は、毎月ではなく偶数月に2カ月分がまとめて振り込まれる。金額はきちんと受け取っているとはいえ、年金振込がない月は不安なものだ。振り込まれた月につい多めに使ってしまい、翌月の手元が寂しくなる人も少なからずいるだろう。そこで、毎月受け取れる投信の分配金が、振り込みがない月の受け皿としてちょうど良かった。
当時の投資環境に目を向ければ、預金は低金利で、かつ日本株は低調。変動幅が大きい株よりも、安定的とされた債券に目が向いた。グロソブの販売資料には、『世界主要先進国の信用力の高いソブリン債券が主要投資対象』『ソブリン債券は、社債や新興国債券等に比べて価格変動リスクが抑えられ、安定した投資成果を目指す資産運用に適している云々』とある。株より安全そうだし、毎月分配金が出るのならと、多くの高齢者が勧められるままに購入した。かくしてグロソブを筆頭に「毎月分配型投信」が大ブームになったのだが、そこに落とし穴があった。大問題になった、「タコ足配当」だ。
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