どうしても分配型投信を加えたい理由とは
資産形成には不向き、手数料も安くない分配型投信を、金融庁があえて加えたいのには理由がある。それは、日本の家計金融資産のうち、6割を占めるのが60歳以上と言われるように、お金が高齢者層に偏っていることだ。資産別にみると預貯金の占める割合が多いうえに、60歳以降は資産が減っていかない。つまり、使われないまま金融資産が眠っているのだ。
その気持ちはわかる。なんといっても人生100年時代、この先何があるかわからないのに、大事な貯蓄を切り崩して使ってしまうのが怖いのだ。ここにこそ、「分配型投信を解禁してのプラチナNISA」が構想に上がって来た狙いが見え隠れする。
「保有効果」という用語をご存じだろうか。人間は、自分が一度手にしたモノに強い価値を感じ、手放したくないと感じる。モノだけでなく、地位でもお金でもだ。だから、預貯金が減っていくことは耐え難い。年金暮らしになればなおさらだ。ゆとりある生活を楽しむために使いましょうと言われても、踏み切れない。だから高齢者の金融資産は使われないままなのだ。
しかし、分配金なら別だ。預貯金が減るのではなく、毎月払い込まれるのだから痛みはない。そのお金が運用利益による分配金でも、元本を払い戻した分配金でも、受け取ったお金なら気兼ねなく使える。
預貯金は引き出せば残高が減るが、値動きのある投資信託なら元本が減っても気づきにくい。払い戻しではなく、分配金というようにお金の見え方を変えてやれば、自分のお金であっても気持ちよく使えるようになる。これなら高齢者が自分の資産を貯め込まず、消費してくれるのではないか――そんな目的がうっすら感じられないだろうか。
家計診断・相談サービス「オカネコ」の運営会社400Fが緊急実施した「新NISA及びプラチナNISA・こどもNISAに関する意識調査」によると、プラチナNISAを利用したいと答えた60代以上は48.5%もいたそうだ。さらに、新しいNISAに求める機能として、自動的に金融資産を取り崩し、年金のように定額で使えるようにする「使い切り設計」を期待する声が3割ほどあった。高齢者だって本音ではお金を使いたいのだ。実際にそうしたサービスを提供している証券会社もある。
お金は現世だけのもの、汗水たらして働き、苦労して貯めた資産は命があるうちに使ってもらいたい。それは同感だ。しかし、これまでNISA失格の烙印を押してきた分配型投信を、聞こえがいい「プラチナ」をかぶせて復活させるのは、なんとも姑息に感じる。政府が口を酸っぱくして言い続けてきた「金融リテラシーを身につけましょう」というフレーズとともに、プラチナNISAの行方を見守りたい。
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