食堂でも怒鳴り声…《教官は候補生を選んで挑発》 アメリカの世界最強「海兵隊」士官候補生学校の"あまりに過酷な実態"

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候補生の食堂はポトマック川のほとりに立つ低層の建物で、兵舎とパレード・デッキから線路を渡ったところにあった。わたしたちは線路に架かる歩道橋を、1日3度の食事のたびに2回ずつ昇り降りした。その夏の訓練の間に378回だ。

OCSでは候補生に腕時計の装着が認められていないばかりか、壁掛け時計もあえて数を減らしてあったため、食事の間隔を時間の目安にしていた。

わたしは配膳を待つ列をのろのろと進んだ。トレーを地面と平行にして体の前に持ち、肘は90度の角度に曲げ、親指と人差し指をくっつけて小さな輪をつくる。

この姿勢はオールズ三等軍曹から命じられた。担え銃の姿勢で行進する時の小銃の持ち方を模したものだからだ。筋肉に徹底的に覚えこませた者がOCSを卒業できる、とオールズ軍曹は言った。そうでない者は陸軍へ行けばいい、と。

テーブルへ行く途中、教官たちが通路を挟んで向かい合わせに並び、怒鳴り声を上げている。パレード・デッキでこっぴどく怒られたばかりのわたしは、何としても目をつけられるのを避けたかった。

教官は候補生を選んで挑発している

『死線をゆく アフガニスタン、イラクで部下を守り抜いた米海兵隊のリーダーシップ』(KADOKAWA)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

頭をかがめて教官たちの間を突き進む。気をつけの姿勢で唾を浴びながら、忍耐や忠誠の美徳についての講義を聞かされて、貴重な食事の時間を無駄にするのはまっぴらだ。

そうしたいやがらせがその場まかせではないことに、わたしは薄々感づいていた。教官たちは罰したり挑発したりする必要があると判断した候補生を選んでいるのだ。全くお咎めなしでテーブルの間に滑りこめたところを見ると、どうやらわたしの回は今朝の一件で終わっているようだ。

合成樹脂のテーブルにつき、背筋を伸ばして踵をきっちり45度の角度で合わせて座った。この上品ぶった姿勢は見せかけだけだ。ここにはマナーもなければ同席者との会話もない。シロップと肉汁を迷彩シャツに滴らせながら、食べ物を口に突っこんでいく。今から3、4分間の任務は、体が丸太走から回復して午前中を乗り切れるだけのカロリーを摂取することだ。

(訳・岡本麻左子)

後編は5月8日に配信予定です
ナサニエル・フィック 元・国務省サイバースペース・デジタル政策局特命大使

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Nathaniel Fick

1977年、アメリカ合衆国ボルチモア生まれ。ダートマス大学で古典学と政治学の学位を取得後、米国海兵隊に入隊。火器小隊長としてパキスタンとアフガニスタン、偵察小隊長としてイラクで作戦を遂行、65人の部下全員を生還させる。退官後、ハーバード大学大学院でMBAとMPAを取得。新アメリカ安全保障センターCEO、サイバーセキュリティ・ソフトウェア企業CEOなどを経て、国務省サイバースペース・デジタル政策局特命大使を2025年1月まで務めた。米国安全保障のキーマンとして日本とも深いかかわりを持つ。

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