食堂でも怒鳴り声…《教官は候補生を選んで挑発》 アメリカの世界最強「海兵隊」士官候補生学校の"あまりに過酷な実態"
はじめのうちはオールズ軍曹が訓練歌を先唱していたが、徐々にその役目を候補生へ移行させていった。それは歌詞というより耳にこびりつく叫び声で、哀調を帯びた南部の黒人霊歌のように、高くなったり低くなったりする。
だが、その叫び声にはビートがあって、わたしたちの踵はきれいに揃ってアスファルトの地面を打ち鳴らした。食堂へ向かう途中、パレード・デッキの半ばまで行進したところで、オールズ軍曹がわたしを隊列から引っぱり出し、自分の代わりに訓練歌を先唱させた。
軍曹から猛烈に攻撃される
わたしは最初の一音目からしくじった。右も左も分からないありさまで、テンポが急に速くなったり遅くなったりする。小隊はそれが目立たないよう努めてくれたが、あまりにも混乱がひどかった。踵が揃わずばらばらになり、朝の散歩に出た観光客グループのように見えた。軍曹はわたしを猛烈に攻撃した。
「このくそったれ候補生めが。隊列を行進させることもできない少尉がどうなるか分かるか」
わたしはしわがれ声で返事した。
「いいえ、軍曹教官オールズ三等軍曹殿」
「戦闘で部下の隊員を死なせるんだ」
OCSでは行進ができない候補生にかぎらず、ブーツを黒光りさせていない者も、真鍮のベルト留めを磨いていない者も、靴下を穿くのが遅い者も、必ずそうなると断言された。
「自分の隊員を殺されたいのか?」
「いいえ、オールズ三等軍曹殿」
言葉が口から出た瞬間、誤りに気づいた。
軍曹は金切り声をあげた。
「俺を何と呼んだ? 飲み仲間だとでも思ってるのか? 俺の妹と付き合いたいのか?」
「いいえ、軍曹教官オールズ三等軍曹殿」わたしはそれ以上出せないほどの大声で言った。
「候補生、おまえは軟弱者だな」
軍曹は声を落としてうなるように言い、顔を数センチのところまで近づけてきた。
「軟弱者は隊員を死なせる前に追い出してやる。覚えとけ」
わたしは動揺していた。こそこそと小隊に戻ると、誰にだって晴れの日は来るさ、と仲間たちが小声で励ましてくれた。だが、不安だった。追い出されたくない。わたしは必死になった。熱意と努力が追いつかないのは人生ではじめてだ。
海兵隊では安楽な日は過去にしかないと、わたしは学びつつあった。昨日の成功には何の意味もなく、明日は来ないかもしれない。毎朝、クワンティコで目を覚ますたびに、今夜もここにいられるだろうかと思った。
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