戦前の北海道で目撃、ヘビを狙う「鷹と鱒」の死闘 ヘビが呑み込めない程の巨大鱒に遭遇した実話

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蛇
山深い川べりで著者が見たものは(写真:tarousite/PIXTA)
戦前の北海道を舞台に「喰う・喰われる」の掟に従ってひしめきあう生命を描ききったアウトドア文学の名著『秘境釣行記』。
沢を走る鉄砲水の恐怖、摑み取りできるほど大量のイワナ、一日で百匹を超すヤマベ釣り、暗闇にひそむヘビやヒグマ、目の前で宙を飛び滝壺に消えていった巨大イワナなど――。
日高地方に住む今野少年は家族総出で山に分け入り、何日もかけてヤマベを釣りながら川をのぼっていく。山深い川べりで著者といとこの友ちゃんが見たのは――。

大鷹の獲物

大鷹は足で獲物を捕えているようだが、2人のところからは判然とは見えなかった。しばらく目を凝らしていると、大鷹の足の辺りで黒褐色の細長いものが動いた。

蛇だ。

それも、かなり大きな蛇だ。大鷹はどうやら、蛇の胴ではなく頭部の方を足で摑んでいるようで、口で咬みつけなくなった蛇は胴体をくねらせて大鷹にからみつこうともがき、そのつど鷹の羽で打ち払われているのだ。蛇は、色合いや模様からみて、このあいだ私に襲いかかった蛇と同じく縞蛇と見受けられた。

彼らの戦いはしばらく続いたが、いかに蛇があらがっても、あの鋭い喙(くちばし)と鉤爪(かぎつめ)から逃がれることはできず、その抵抗はしだいに間遠となっていった。やがて勝利を得た大鷹は、らんらんと光る目で私を一瞥すると、ピャーッと高らかに叫び、大きく翼をひらいて羽摶いた。そして足に蛇をぶら下げてフワリと空へ浮かび上がるや、せわしなく翼を上下に動かして、対岸の原生林の中へ消えていった。

「友ちゃん、行こうか」

「うん。ああ、びっくりした、あんなの初めて見たもの。タモちゃん、あの鷹、蛇をたべるのかい」

「そうだろうな。でも、あの鷹がいてよかったよ。蛇に気が付かないで岩に上っていったら、またこのあいだのように飛びついてこられたかもしれないもの」

人の目に美しく見える大自然は、野生の生き物たちにとっては生存を賭けた厳しい戦いの場なのであった。私はそれを言葉にしては言わなかったが、胸の中で恐れとも戦(おのの)きともつかぬものが泡立つのを感じていた。

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