きのこ採りで戦慄「熊の巣穴」見に行った男の末路 戦前の「人間と熊」の命がけの闘いを克明に描写

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ヒグマ
さわーっと何かが動いたような気配を感じ、思わず熊の穴に顔を戻した―一瞬、体が硬直し、息が止まった(写真:asante/PIXTA)
「赤毛」「銀毛」と呼ばれ恐れられた巨熊、熊撃ち名人と刺し違えて命を奪った手負い熊、アイヌ伝説の老猟師と心通わせた「金毛」、夜な夜な馬の亡き骸を喰いにくる大きな牡熊―――。
戦前の日高山脈で実際にあった人間と熊の命がけの闘いを描いた傑作ノンフィクション『羆吼ゆる山』。
長きにわたって絶版、入手困難な状況が続いていたがこのほど復刊された。
本稿では同書から一部を抜粋してお届けします。

きのこの狩り場

「ここを登れば、すぐ上に椎茸の出ていた木があるんだ。この辺りでは、ここよりほかに登れるところはないからな」

そう言って、六馬(編集部注:1歳上の友人)が先に立ってその絶壁を登り始めた。やや離れて、三郎(編集部注:同じ歳の友人)と私が続いた。岩の突起を探り、オーバーハング気味に上部が迫り出した壁のテラスを横に渡り、さらに岩の割れ目を伝って上へ這い上がっていった。

こうして20メートルあまりの岩壁を登りきった3人は、小笹の生えた広い緩斜面の外れに出た。そこから見上げるなだらかな斜面は、山の上へ延びて雑木の大木が立ち並ぶ山襞の岐れに至るが、その半ばからは黒々としたトドマツの林に被われており、山嶺の雪の白さと対照をなしてそれが鮮やかに浮き上がって見える。一帯は、人の手の入らない、不伐とも言うべき原生林であった。

先を歩いていた六馬が、急に振り返って言った。

「ほら、ここへ来てみれ。これが去年取り残していった椎茸だよ」

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