アイヌ伝説の猟師が語る「ヒグマの最大の欠点」 戦前の北海道で実際にあった「人間と熊」の闘い
毒の効き目を調べる
熊が何かに襲いかかるときは、前足を振り上げて立ち上がる―これが熊の習性の中でも最大の欠点である、と清水沢造(編集部注:アイヌの老猟師)は言っていた。
かつて狩猟を生業としていたアイヌの人々は、この天のカムイから授けられた獣を狩るのに、昔は弓矢をもってしていた。熊が立ち上がったとき、一の矢で急所を衝くことができれば、それでもどうにか倒すことはできた。
しかし、羆は蝦夷地最大、最強の猛獣であり、それを殺獲する武器として弓矢はいかにも非力であったし、危険も大きかった。一の矢で急所を外したあげく羆に襲いかかられ、命を落とした人も少なくなかったといわれる。
そうした状況の中で彼らが苦心の末に作りだしたものに、ブシという毒薬があった。それは、ヘビノダイハチ(ヘビノタイマツ、またはマムシグサ)に含まれている毒素と、ブシ(トリカブト)に含まれている毒素とを煮詰めて抽出した毒薬であったが、製法が人によって異なり、それゆえ、毒の回りに早い遅いがあったという。抽出を終えた段階で、もう一つやらねばならぬ作業があった。それは毒の強弱、つまり効き目を試すことである。