「相場の30~40%でも売れない」管理組合理事の“独裁”で悪評吹き荒れた渋谷一等地マンションの住民が受けた理不尽な支配(後編)

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売買契約を結ぶ前、島は視察に訪れている。習慣的に外観の写真を撮っていると、管理人の大山が「何をやっているんだ、お前は!!」と小走りで追いかけてきた。「撮った写真を全部消せ」と威圧的に凄まれ、その場で消去を強制された。

数多の売買を成立させてきた島にとっても、初めての経験だった。管理人には面食らったが、立地を考えると売れるはずだ。内外装もヴィンテージマンションにしてはきれいに保たれていることも加点要素だった。ただ、島の培ってきた不動産業界の常識は、秀和幡ヶ谷レジデンスには当てはまらなかった。

「相場から30~40%に設定しても、全く買い手がつかないんです。非常に売りづらいマンションで、その理由は理事会の存在に凝縮されていた。不動産屋から問い合わせが来ても、管理の実態を告知義務として伝える必要がありました。そうすると、見事にスーッと引いていってしまう。世帯数が多いと組合の交代のハードルは一層高い。正常化には何年かかるか分からない、というのが当初の印象でした」

所有者に無断で高額工事を手配し代金を請求

購入から間もなくして売却を半ば諦めた島は、賃貸で貸し出すことにした。入居者はあっさり決まったが、早々にトラブルに直面する。水漏れが生じた際に、借り主が管理人に相談すると工事業者を手配したという。そこで「オーナーには報告するな」とした上で、後日、工事業者から数十万円の請求書が島の会社に届いた。

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「何の権限があって勝手に高額の工事を行ったのか」島は激怒し管理人を問い詰めたが、要領を得ない説明しかない。支払いを拒否したことで、直接的な嫌がらせともとれる行為にも遭った。水漏れ後に空室になり、別の借り主を探そうとすると、入居者面談でことごとく落とされたという。賃貸もおぼつかなくなり、困り果てた島は、内容証明郵便を送付したが受け取りを拒否された。

理事会の言い分はこんな趣旨のものだった。前オーナーが売却を検討していた際に、吉野理事長(仮名)から「勝手に売るな」「ウチの指定した不動産屋で売れ」「そうでないと新しい区分所有者は認めない」という“注意”がなされた。書類上では売買契約は完了している。ただし、管理組合の承認を得ていないため、区分所有者として認めない、というロジックだ。

正当性が危ぶまれる理屈ではあるが、島の他にも秀和幡ヶ谷レジデンスで同じような経験をした者は複数名いたことも記しておく。

(→前編に戻る)

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。新著「ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス」が発売中。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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