「相場の30~40%でも売れない」管理組合理事の“独裁”で悪評吹き荒れた渋谷一等地マンションの住民が受けた理不尽な支配(後編)
佐藤と何度かやり取りしたあと、私は「できるだけ多くの角度から証言を集めたい」と求めた。記事の構成としては、有志の会と管理組合の互いの意見を掲載する“紛争”報道にするしかないと考えていた。そんな中でも、区分所有者たちの切なる声はとくに細かく拾っておくべきだ、と判断した。
ここからの佐藤の行動は迅速だった。新宿の事務所で会ったあと、すぐに有志の会を集める段取りを組んだ。コロナ禍のため、せいぜい2〜3人の参加だろうと高をくくっていたが、10名ほどが区の集会所に集まった。ニット帽を被り、頭部を隠した手島の姿もあった。
有志の会の主張は、これまで記してきた管理体制の是非を問うものが大半だった。その上で、以下の7点を管理組合に求めていくという趣旨だった。
②国が推奨する総会運営の実現
③マンションのお金の流れの明確化(第三者機関などへの調査依頼)
④避難経路の常時確保、外階段の常時施錠の撤廃
⑤デイケアなど、介護・医療機関の出入り制限の撤廃
⑥希望者には「バランス釜」から「ユニットバス」への変更を許可すること
⑦現管理組合の固定理事による執行部長期体制の見直し
さらに、一部の不動産業者への売買の解禁やタッチキーの付与についても言及した。当時の私の取材メモを見返してみると、印象深い言葉に二重の赤線を引いていた。「生活に自由がない」「私たちは普通の暮らしを求めているだけ」強烈な内容の管理ルールよりも、住民たちの口から次々とこぼれ出る率直な言葉に対して、心が動かされていた。
相場の30~40%でも売れない!?
この日の参加者の中に、1人興味深い立場の人間がいた。渋谷区代々木に不動産会社を構える島洋祐(41)だった。島は数カ月前に、ある不動産会社から請われる形で、秀和幡ヶ谷レジデンスの1室を法人名義で購入していた。
発端は「オーナーが管理組合に強い不信感を持っており、たたき売りでもいいから手放したい」と相談を受けたことだった。渋谷区の一等地であれば、転売すれば利益が出るはずだ。そんな皮算用のもと、格安ともいえる金額で島は購入を決めた。
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