
──買収後、会社の資金を買い手に吸い上げられたのに「経営者保証」は売り手(元の経営者)に残り、返済に苦しむ例が多く出てきます。
金融機関から融資を受ける際、法人の代表者が連帯保証人となって債務を保証するのが経営者保証。例えば、本書に登場する78歳の元中小企業社長は、M&Aで手放した会社の債務を負ったままだ。終(つい)の住処(すみか)になるはずだった不動産を売却しても返済しきれず、郊外の団地に住みながら、羽田空港で保安検査のパートをしている。
本書の基になった「朝日新聞デジタル」連載の前半では、経営者保証が買収後も売り手から外れない問題を主なテーマとした。仲介業者からは「金融機関が判断することで、われわれは責任を持てない」と説明された。素人にはもっともらしく聞こえるが、冷静に考えるとおかしい。売り手は経営者保証を外す前提で会社の譲渡価格を決める。「外れないリスク」があっていいと思う人はいないはずだ。
それにもかかわらず、契約書の中身もいいかげんで、経営者保証の解除は「努力する」としか書いていないものがある。成約して株式を譲渡した時点で、仲介業者の仕事はおしまい。買収された会社から買い手が現預金を引き抜いて連絡を絶っても、仲介業者は何もしない。とんでもない話だと思った。