会員限定

M&Aが成約さえすれば高額報酬。業界構造に問題が潜んでいる/『ルポ M&A仲介の罠』藤田知也氏に聞く

✎ 1〜 ✎ 505 ✎ 506 ✎ 507 ✎ 508
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
『ルポM&A仲介の罠』著者の藤田知也氏
藤田知也(ふじた・ともや)/朝日新聞記者。早稲田大学大学院修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て02〜12年に『週刊朝日』記者。経済部に移り、18〜19年に特別報道部、その後は経済部に所属。著書に『郵便局の裏組織 「全特」──権力と支配構造』『やってはいけない不動産投資』など(撮影:梅谷秀司)
中小零細企業のM&A(合併・買収)をめぐるトラブルが多発している。高齢の経営者が従業員の継続雇用を条件に株式を譲渡したが1年半後に倒産した老舗の分析機器会社、立ち食いそばチェーンとして都内で人気を博したがM&Aから8カ月後に全店を閉めた「いわもとQ」──。問題案件の取材を重ねるうちに、売り手と買い手をつないで「成功報酬」を受け取る、M&A仲介業者の実態が浮き彫りになった。
ルポ M&A仲介の罠
『ルポ M&A仲介の罠』(藤田知也 著/朝日新聞出版/2090円/360ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──買収後、会社の資金を買い手に吸い上げられたのに「経営者保証」は売り手(元の経営者)に残り、返済に苦しむ例が多く出てきます。

金融機関から融資を受ける際、法人の代表者が連帯保証人となって債務を保証するのが経営者保証。例えば、本書に登場する78歳の元中小企業社長は、M&Aで手放した会社の債務を負ったままだ。終(つい)の住処(すみか)になるはずだった不動産を売却しても返済しきれず、郊外の団地に住みながら、羽田空港で保安検査のパートをしている。

本書の基になった「朝日新聞デジタル」連載の前半では、経営者保証が買収後も売り手から外れない問題を主なテーマとした。仲介業者からは「金融機関が判断することで、われわれは責任を持てない」と説明された。素人にはもっともらしく聞こえるが、冷静に考えるとおかしい。売り手は経営者保証を外す前提で会社の譲渡価格を決める。「外れないリスク」があっていいと思う人はいないはずだ。

それにもかかわらず、契約書の中身もいいかげんで、経営者保証の解除は「努力する」としか書いていないものがある。成約して株式を譲渡した時点で、仲介業者の仕事はおしまい。買収された会社から買い手が現預金を引き抜いて連絡を絶っても、仲介業者は何もしない。とんでもない話だと思った。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD