
大山 顕(おおやま・けん)/写真家・ライター。1972年生まれ。98年千葉大学大学院修了後、松下電器産業(現パナソニック)入社。2007年に写真家として独立。工場や団地、ジャンクションなどを撮る傍ら、1600以上のマンションポエムを収集・分析。(撮影:梅谷秀司)
──ポエムをちゃかすのではなく、「都市のあり方」というテーマに昇華しました。
もともと都市論に興味があった。大学時代の専攻は都市デザイン。そこから工場や高速道路、団地などの写真を撮ってきた。建築の王道ではないし、景観としてはあまり評価されないが、私にとっては格好いい存在だ。100カ所以上訪れていると、これらを通して都市の姿が見えてくる。
マンションポエムも同じだ。きっかけは2004年に目にした、お台場のタワーマンションの広告。お台場という立地を惑星になぞらえる「PLANET DAIBA その惑星に住める日がくる。」というコピーを見て「なんだこれ、面白いぞ」と。当初は半ば笑いながら集めていたが、実は都市や住まいのあり方を映し出しているのでは、と思うようになってきた。
入り口で客の気を引いた時点で役割を終える
──収集したポエムを分析して得た結論は、「ポエムはマンションを語っていない」。
表現規制や、建物ができる前から売り始めるという事情もあり、語れないのだ。売るものがまだ存在しないから、言葉もアバウトにならざるをえない。よく「たたえる」という言葉が出てくるが、誰が何をたたえているのかわからない。食べ物や電化製品ならこんな広告は許されないだろう。
東京の港区でも、千葉の津田沼でも、建物のスペックは大きくは変わらない。買い手が重視するのは最寄り駅であって、広さや間取り、設備は付随的な情報にすぎない。すると、住まいを選ぶことは「どこ」に住むかであり、「どんな家」に住むかではなくなってくる。だからマンションポエムは立地には饒舌だが、マンション自体は「隠そう」とする。
マンションは購入を検討し始めてから実際に住むまでが長い。そして住む頃には、自分の家がどんなポエムをうたっていたかなんて誰も覚えていない。入り口で客の気を引いた時点でマンションポエムは役割を終える。ポエムが何を語り、何を語っていなかったか、誰も気にしない。
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