宅配業者は「過重労働の矛盾」に直面している ネット通販の利便性を支える過酷な現場

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──クール宅急便の不適切な温度管理問題もそのままだったようで。

僕が見た中ではそうでしたね。ドライアイスを入れようとしたら「何で入れるんだ」と。「いや温度上がってるし」と言うと、「入れんでいいっ!」と。センターに着いた時点で規定温度になるよう入れる時間を遅らせろということなんだけど、じゃあその間はどうでもいいのか。

2013年に温度管理不適切が露呈したときは、セールスドライバーがお客に届ける時点だったけど、ベースでの仕分け時でも同じく問題があった。でも管理を徹底するには手間もカネもかかる。なぜできないか?人がいないから。一定時刻に温度管理表へ記録するんだけど、こっちは荷物の仕分けで手いっぱい。書き込む間にどんどん荷物が流れてきて、渋滞すればたちまち警報ランプが鳴りだす。

結局、宅配便の運賃が安いから人は増やせないって話なんですよ。すべて運賃に懸かってると僕は思う。

運賃を払うか、要求水準を下げるか

──宅配便はどうなってしまう?

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ドライバーの労働時間は全産業平均より3割長いのに、年収は大型トラックで416万円、中小型では385万円と、全平均の469万円を下回っている。低賃金・長時間労働で人手不足は深刻化していきます。

結局、消費者が対価を払うかどうかですね。便利で安いのが何より、という意識は変われるのか。この本でいちばん書きたかったのは、おカネを払いましょう、ってことだったんです。深夜8時間働いて、給与明細16万円という金額がどこから来るかといえば、運賃ですわ。低運賃が宅配市場を育てた面はあっても、それがもとで今ガタガタになってる。ある日突然、宅配便が届かなくなったら大勢の人が困るでしょう。それでいいの?という問題提起です。

今のサービスレベルを享受するために運賃を負担するか、運賃はそのままでサービスの要求水準を下げるか。誰かが泣くことを前提に成り立ってるサービスが長続きするとは、僕は思えないんですね。皆さんに考えてもらう、一つのきっかけになればいいなと思って書きました。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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