「自宅の6畳を改装」66歳で寿司屋を開業したワケ 定年後、一から修業した元広告マンの充実した日々

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「気楽な貸し切りですので、普段はお寿司屋さんに連れていけない小さなお子さん連れの方もいらっしゃいます。飽きちゃったらリビングでテレビを見ておいでって、ここではそれができるので」

出張寿司で伺うお宅には在宅介護中の高齢者がいて、家を空けられないという家庭もある。

「握りたてのお寿司を在宅介護中のおばあちゃんのベッドに運んでもらったりすると、本当にうれしい。老人ホームに行ったときは皆さん全員が、おいしいおいしいと言ってくれて、大喜びでした。そして昭和一桁、大正生まれの皆さんは、実にお寿司のネタに詳しいんです。旬の味も知っている。やっぱり日本人はお寿司が大好きなんだなあと実感しました」

貸し切り寿司
衝立の向こうにはキッチンが設置されている(撮影/大澤誠)
寿司
河野さんが握った寿司(撮影/大澤誠)

週2日の実働で充実した日々

河野さんの大将歴も14年。出張寿司と貸し切りを合わせて年平均50回、週1回のペースで予約が入る。1回の予約で河野さんの実働は仕入れと仕込みで1日+当日1日の2日間が基本だ。タイムスケジュールを細かく書き出して落ち度がないように進めていく。

タイムスケジュール
(撮影/大澤誠)

出張寿司はお客さんのプライベートの場で握り、貸し切りの個室はお客さんとの距離が近い。河野さんは自分の立場を、おいしいものを食べていただくための給仕人と心得ている。

長寿の金言連載
この連載の一覧はこちら

「なるべく静かに、話しかけられないかぎり自分からは声はかけちゃいけないと思っています。場を和ませるために、皆さんが笑っているときは、僕も握りながら一緒にフフッと笑ったりもしますが、それもできるだけ慎むようにしています」

自分は人にふるまえるもの、喜んでもらえるものを持っているということが、こんなにも自分自身の喜びにつながるものかと思う。そして年齢を重ねるごとにその喜びは深くなっていくと、河野さんは言う。

「お寿司は生きているうちは握り続けたい。僕が握ったお寿司で人が喜んでいる顔が見たいし、おいしいという声が聞きたいんですね。人生の後半戦にこの商売を選んで本当によかったなと思っています」

桜井 美貴子 ライター・編集者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さくらい みきこ / Mikiko Sakurai

1965年生まれ。秋田県出身。出版社勤務の後、フリーランスの編集・ライターとして独立。医療、カネ、性などさまざまなテーマで取材、執筆を続けている。生活実用をはじめとした書籍の企画編集、人物インタビューなど、硬軟の現場を渡り歩く。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事