「毎日4~5時間、魚のおろし方からシャリの炊き方、握り方を反復練習をくり返しながら学んでいくのですが、やればやるほど素人なりですが、上達していくのが実感できて、夢中になりました。僕くらいの技術でも握りたての寿司は本当にうまくてね。ああ、船の上で大将が言ったことは本当だったんだなあと思いました」
実習の食材はふんだんに用意され、小肌や鰯などの大衆魚だけでなく、旬の鯛や縞鯵などの高級魚も出た。現在は2カ月制の集中特訓コースだが、当時、河野さんが受講したコースは、月曜から金曜日まで毎日授業がある1カ月コース。当然、食材費などを含む受講料も高額で40万円を超えた。
毎日、喜々として学校に東京すしアカデミーに通う河野さんに、あるとき妻の三千代さん(81歳)からまさかのクレームが入る。
「これから年金で食べていくのに、高い授業料をつぎ込んでどうするつもりなの? まさか退職金を使おうなんて思わないでよね!」
そう言われて河野さんは、「自分の小遣いは自分で稼ぐから文句はないだろう」と宣言、東京すしアカデミーを卒業後は街場の寿司屋に見習いとして働きに出ることになったのだ。
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見習い1年半で握らせてもらえるように
仕事を教えてくれて、退職後に有り余った時間にやることができて、さらに小遣い稼ぎもできる。河野さん的には「三拍子そろって、こりゃありがたや」だった。
特に2軒目の寿司割烹では、ひと回り以上年下の大将が河野さんにさまざまなことを教えてくれた。
「特に勉強になったのは江戸前の仕込みと、築地に連れて行ってもらった仕入れ。朝の6時に大将が家に車で迎えにきてくれました。場内を大将の後ろにくっついていくわけですが、市場の歩き方を実地で学ぶことができました」
1年半を過ぎると、カウンターで握らせてもらえるようになる。店で最年長だけに、「河野さんは黙ってりゃ大将に見えるからさ、ちゃんと握ってよ(笑)」と茶々を入れられたりするのも、楽しかった。
勤続2年になると、「若い衆が調理師免許を取るから、河野さんも取っとけよ」と勧めてくれて、2010年に調理師免許を取得した。
朝10時に出勤して、夜の仕込みを終える18時まで。昼のまかないつき。さて、給料は?
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