「自宅の6畳を改装」66歳で寿司屋を開業したワケ 定年後、一から修業した元広告マンの充実した日々

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「一番下の見習いですから、僕の飲み代くらいでした(笑)。僕は酒好きだから、全部そっちへ。お客さんからいただいたお金で大事に飲ませてもらっているんだからいいだろって、女房には言っていましたね(笑)」

見習いの仕事は4年で区切りをつけた。自己流の寿司修業の日々で、つねに頭の中にあったのは、すしアカデミーの講師が折りに触れて言っていた「自分の家でお寿司を握って食べてみなさい。“おうちでお寿司”、おいしいよ」という言葉。

それに加えて、シャリとネタを持ち出して、その場で握るとおいしい寿司が食べられるという船上の実体験。

河野さんは「おうちでお寿司」「握りたてのおいしさ」を出張寿司で届けようと決めた。人生後半戦の生きがいが見つかった瞬間だった。

貸し切り寿司
現在は見ての通りの包丁さばきを見せる(撮影/大澤誠)

広さ6畳の1室を改装して「隠れ寿司屋」に

2011年、出張寿司からスタート。その年の暮れに「鮨かわの」の営業許可証を取得し、貸し切りの営業も始めた。

出張寿司の初期費用は微々たるものだった。重ねて運べるネタケース、組み立て式の作業台とテーブルは自作したので、かかった費用は材料費だけ。それ以外は飯台、保冷クーラー、テーブルの下に敷くシート、生ゴミ用のバケツ2個、自分用のスリッパ、包丁などの調理道具一式。ネタとシャリを車に積んで、お客さんの家に向かう。

貸し切り寿司
自作の組み立て式の作業台(撮影/大澤誠)

集客は主に友人知人の口コミ頼み。滑り出しは苦戦したが、学生時代の友人たちが次々と依頼してくれて、少しずつ口コミの輪が広がっていった。

やがてお客さんたちから「狭くてもいいから大将の厨房で作りたての寿司を食べたい」というリクエストを受けて、自宅の建て替えのタイミングで広さ6畳あまりの1室を用意した。

流し台は衝立で隠し、8人掛けの大きなテーブルの一辺にネタケースを設置。飯台はテーブルの高さに合わせた作業台の上に置く。ネタケースや飯台用の作業台は出張寿司のものを兼用した。

貸し切りのコースには三千代さんお手製の前菜、茶わん蒸し、味噌汁、デザートがつく。

貸し切り寿司
自宅を改装して構えた貸し切り寿司の店内。お皿は妻の三千代さんが趣味の陶芸で焼いたもの(撮影/大澤誠)
次ページ年平均50回、週1回のペースで予約が入る
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事