しかし後の世代は、1980年代前半までの女性と同じように、安定した職を得ることが困難になり、結婚が生きる手段の時代に逆戻りしたのだろうか。安定した生活を守るために、「産まない」選択ができない女性は、大勢いるのかもしれない。
また、若林さんの著書には、欲しくても産めなかった女性も出てくる。52歳のウェブデザイナーの女性は、20代の頃までずっと、家族に振り回され出産どころではなかった。30代で母が倒れ、孫の顔を見せたい、と長年のパートナーと38歳で結婚した。
しかし、母が亡くなった後も、不妊治療はうまくいかず、立ち直るのに治療期間と同じ時間がかかったという。その間、職場の同僚が子どもの話をするのに傷つき、実父の心ない言葉にも傷つけられる一方、とことん向き合ったパートナーと絆を深め、義母にも支えられた。
環境によっては「産まない選択」が過酷になることも
産まなかった人の中には、産みたくない人もいれば、産みたくても産めない人もいる。「産まない」「産めない」人にも、思いや経験によって異なる複雑なグラデーションがある。
若林さんの著書には、30~40代女性向けの自治体のイベントが、どれも母親対象に設定されていて、「子どものいない女性は社会全体に拒絶されているように思えて寂しかった」経験が書かれている。
産まない選択をしたことに疎外感を覚えるか、「産むべき」プレッシャーを感じるかどうかは、その人が暮らす環境や価値観によって異なる。しかし、「産むのが当たり前」な環境にいる場合は、産まない選択が苛酷になりうることも、若林さんの体験と取材から浮かび上がる。私たちは本当に、多様な価値観や生き方を認める社会を築けているのだろうか?
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