そしてタイムトラベルを核としたストーリーが第2の魅力となる(厳密には「タイムトラベル」「タイムリープ」「タイムスリップ」には定義の違いがあるそうだが、本稿では「タイムトラベル」で統一する)。
パンフレットの中で、映画評論家・町山智浩は「『時かけ映画』の傑作」と評している。「時かけ」――もちろん細田守監督『時をかける少女』(2006年)のことだ。
加えて、大ヒットした『君の名は。』(2016年)や、最近では『侍タイムスリッパー』(2024年)が話題を呼んだ。そしてテレビドラマでは昨年、TBS『不適切にもほどがある!』 が話題に。つまりは「タイムトラベル物」が、今や1つのジャンルになった。
しかし、それらの中で『ファーストキス』は、頻繁かつ簡単に何度も何度もタイムトラベルすることや、タイムトラベル先が、ほぼ同じ時制と場所であること、そこで松たか子が繰り出す間の抜けた手口が、すべて失敗に終わることなどで、異彩を放っている。
つまり私には「タイムトラベル物」のパロディ=『コント・タイムトラベル』のように見えたのだが、このあたりも『ファーストキス』独特の魅力となる。
坂元裕二の持ち味であるセリフ
しかし、この映画の魅力の本質は、やはり坂元裕二の脚本にある。さらに言えば、坂元裕二の持ち味である見事なセリフだ。研ぎ澄まされたセリフ=「坂元パンチライン」の応酬に身を委ねていると、「エンタテインメントの本質は言葉なのだなぁ」と、あらためて感じ入る。
具体的に今回の映画で言えば、「好きなところを発見し合うのが恋愛、嫌いなところを見つけ合うのが結婚」あたりが最高の「坂元パンチライン」だろう。
かつての『カルテット』で言えば、松たか子が満島ひかりに言う「泣きながらご飯を食べたことある人は、生きていけます」にとどめを刺す。
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