映画「ファーストキス」のセリフが観客に刺さる訳 「坂元パンチライン」に全身を委ねる幸福

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さらにAIが、そんな騒々しい状況に加勢する。「恋愛と結婚の違いについて、坂元裕二のセリフっぽく表現してください」と、最近話題の「Grok」に実際に聞いてみると、

「恋愛は、二人が出会った瞬間から始まる、甘美で切ない、運命の交錯。結婚は、その交錯を選び取って、日々の生活の中で、愛を育てていく、地道で力強い、約束の形」

などと、当然「坂元パンチライン」とは比べ物にならないにせよ、AIは長々と饒舌に語り出す。こんな文字量・言葉量に溢れた令和の毎日は、言葉の価値がインフレして値崩れしている状況にある。

そんな中、映画館の暗闇に入り、スマホから隔絶され「坂元パンチライン」による言葉のエンタテインメントに没入するのは、何と素敵な体験だろうか。

これこそが映画『ファーストキス』の本質的な魅力だと考える。言葉の価値がインフレして値崩れしている状況だからこそ、「坂元パンチライン」に全身を委ねる価値は、決して値崩れしないのだ。

採点が満点にはならない理由

ということでおすすめしたい映画なのだが、それでも私の採点は、決して満点にはならない。特に『ファーストキス 1ST KISS』という同語反復のタイトルが気に入らない。そこでもっといいタイトルはないかと、ここまでの文章を入れてGrokに聞いてみたら、3つ返ってきた。

――『時をかけるコント』『初恋のループ』『松たか子の時間旅行』

だめだ。AIごときに「坂元パンチライン」はまだまだ作れなさそうだ。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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