映画「ファーストキス」のセリフが観客に刺さる訳 「坂元パンチライン」に全身を委ねる幸福

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「清純派美人女優」(最近いよいよ流行らない)と「コメディエンヌ」との間を秒速で行き来する、日本唯一の立ち位置とでも言うか。

そんな松たか子独特の演技のあり方を坂元裕二は、本映画のパンフレットにおいて、別の側面からこのように表現している。

――松さんのお芝居を観ていると、なんで今こんな顔をしたんだろうと思うことがしょっちゅうあって、 彼女のお芝居のプランがよくわからないんです(笑)。(中略)自分としては、こんな気持ちなのでこういう顔をした、みたいなお芝居を観るのが退屈なんですね。松さんは、気持ちははっきりとわからないのに、見ていてなにか心が動くというようなお芝居をいつもされている。

ドキドキするほど美しく黄昏れる瞬間にうっとりとしていたら、次の瞬間には、何匹もの犬に囲まれて転げ回るという謎シーンに体当たりして、大いに笑わせる。

そんな彼女の多面的な存在感は、今の日本のエンタテインメント界において、とても貴重だ。「職業:松たか子」、ゆくゆくは、同様に「美人女優」から始まって、今や「美しく笑わせる」ポジションで他を寄せ付けない大先輩=「職業:松坂慶子」のような道を歩んでいくのではないか。

松村北斗の安定感

あ、ここで余談を挟めば、この映画、特に前半は、コメディエンヌとしての松たか子を見ながら、大声でゲラゲラ笑うべき映画だと思う。タイトルからして(主に後半が担っている)純愛物の連想が強すぎるのだが、そんなのに引っ張られず、松たか子の体技が見事な「コント」を素直に楽しんでいただきたい。特に前半は、タイトルが『コント・ファーストキス』だったとして臨むのがいい。

そんな「職業:松たか子」に対して、淡々と応える松村北斗も、安定感たっぷりである。実は、彼についてもかつてこの連載で取り上げている 。そのときの書いた印象は、今にもきっちりと引き継がれている――「若い頃の江口洋介をさらに精悍にしたような感じで、またセリフ回しも板についており、例えば昭和30年代だったら、日活映画の主役として重用されただろう」

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