これは海で隔離された島国であり、文化・民族的多様性が少なく、ほぼ全員が日本語を話すという極めて均質な文化背景の上に成立したものとされる。全員が同じ前提を持っている(あるいは実際はそうでなかったとしてもそう信じられる)環境でない限りゲン担ぎというものは成立しないだろう。
先に挙げた国々のすべてがローコンテクスト文化というわけではないが、西洋はローコンテクスト文化の傾向が強いとされる。移民国家アメリカや、昔から交易やビジネスのため多国籍の人を受け入れてきたオランダを見ると、コミュニケーションの違いは明らかだ。
ハイコンテクスト文化ゆえにゲン担ぎが成立できているとは、考えられないだろうか。お節料理が生まれ、継承され、誰もがおいしいとかおいしくないとか言わず黒豆や数の子にありがたみを感じるのは、実はすごいことなのだ。
なおゲン担ぎの風習が日本にある理由として、口に出した言葉には霊的な言葉が宿るとする「言霊(ことだま)信仰」の存在もしばしば挙げられる。いずれにしても、ゲン担ぎは世界中にあるわけではないのだ。
正月料理の未来
正月というのは神道に基づく日本の行事であり、正月料理はニューイヤーズフードとは別物の日本文化だったのだ。そう考えると「なぜ世界に正月料理がないのか」の謎も解ける。
しかし、正月料理の文化も大きく変化してきている。今や重箱いっぱいのお節料理を手作りする人は減り、購入したり数品だけ作ったりという家庭も増えている。市販のソーセージとポテトサラダでエフォートレスなフィンランドの新年を思わせる。
またかつては三が日はお雑煮を食べて正月を過ごす雰囲気があったのも、今は2日あたりから違うものを食べたくなるのか、レシピサービスクックパッドにおける「カレー」の検索頻度は1月2日から5日にかけて急増する(伊尾木ら 2019)。新年来たね!で終了する文化と似てきてはいないか。
伝統も文化も、変化するものなのだ。
神社本庁『お正月のあれこれ』
熊倉功夫『おせち料理をいただく前に。あらためて知っておきたい「家族でおせちを囲む意味」』 婦人画報
伊尾木将之, 宇都宮由佳『レシピ検索データから見える ハレからケへの移行期 ―正月からの反動を中心に―』食文化研究会誌15, pp.1-14(2019)
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