ニュージーランド公立小の"自由で刺激的"な日常 移民大国で根付く「ダイバーシティ教育」の実際
鳥羽:興味深い話です。では、先ほど学校で見たマオリカルチャーは、この国のあらゆる教育現場に浸透しているという認識でいいんですか。
平倉:現実には地域や学校によって大きく異なりますが、理想はそうです。マオリ語とニュージーランド手話は、英語とともにこの国の公用語になっていて、子どもたちはその2つの言語も楽しそうに学んでいます。
先日、小学校で入学式があったんですが、マオリの歓迎の儀式「ポーフィリ」に部分的に則して行われるイベントでした。儀式はマオリ語での挨拶のあと、マオリの先生が手に枝を持ち、呼びかけの言葉を唱えつつ波のように手招きして、新入生と保護者たちを建物へ導いていくところから始まります。招き入れられて、大きな建物のなかに入ると、全校生徒の迫力ある「カパ・ハカ」によって迎えられる。それを受けて新入生の保護者たちが母国語で感謝を伝えるんです。
マオリ文化を一種のファンダメンタル(土台)としつつも、多様なバックグラウンドの移民たちをそこに受け入れる。まさにこの国の理想の1つが示されていますね。しかもそれが堅苦しくなく、リラックスしたイベントとして行われているんです。
共存の仕方を模索している
鳥羽:真面目くさった感じで、「反省しています」という感じじゃないところがいいですね。
平倉:ええ。入植者によってマオリの土地が奪われ、命が奪われる悲劇的な過去があったことは片時も忘れることができない。でもそこで、反省と謝罪によって問題を一挙に過去のものとして済ませるのではなく、実際にいま同じ土地の上で、マオリとパケハという大きな2つの異なる文化が、あるいは他の移民たちの文化が、どうやって共存できるのかを実験しようとしている。それも歌ったり踊ったり、食べたり読んだり話したりする、生きたからだのあり方として。
私の生活拠点はウェリントンなので、国全体の話として一般化することはできませんが、この街にはそういう空気が満ちていますね。
専門は芸術学。横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院Y-GSC准教授。1977年生まれ。著書に『かたちは思考する──芸術制作の分析』『ゴダール的方法』などがある。2023年4月から2024年3月までヴィクトリア大学ウェリントン(ニュージーランド)客員研究員。3児の父。
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