校庭の一角に「プレーパーク」のびのび遊ぶ子どもたち

ここは、東京都昭島市立光華小学校の校庭の一角にある「光華小プレーパーク」。

そびえたつクスノキを囲むように、ロープで作られた大きなハンモックやバランスをとりながらロープを渡るモンキーブリッジ、ボルダリングで登ることもできる手づくりの木製すべり台、どろんこ遊びもできる砂場などが点在している。

放課後の時間帯に取材に訪れると、砂場近くの水道から水を出し、といをつたわせて思い思いに「池」を作る子どもたち(タイトル下写真)、ハンモックにねそべり、皆で空を見上げる子どもたち、木製すべり台を勢いよく滑り降りる子どもたちの姿があった。

自分の好きなように、自由にのびのび遊ぶ子どもたち
(写真左:長島氏撮影、右:眞砂野氏提供)

「いったん家に帰ってから、友達と遊びにきたの」という1年生5、6人は、モンキーブリッジで、皆で一緒にバランスをとりながら渡っている。

一般的な校庭遊びとは異なり、決まった遊び方やルールに縛られることなく、自分の好きなように、自由にのびのび遊ぶ子どもたちの姿が印象的だった。

「まず、やってみよう! 〜私の学校は、私がつくる!〜」

「プレーパークが先にあったわけではなく、僕たちが作っていきたい学校の具現化の方法の1つとして、プレーパークがありました」というのは、昭島市立光華小学校校長の眞砂野裕氏だ。

プレーパークは、「冒険遊び場」とも呼ばれ、通常の公園のようにブランコやシーソーなど既存の遊具はなく、子どもたちが自由な発想で遊び、作りあげていく遊び場。全国に300カ所以上あると言われているが、NPO法人や地域の任意団体が運営しているケースがほとんどで、学校にプレーパークがあるのは類を見ない。

眞砂野裕(まさの・ゆたか)
東京都昭島市立光華小学校校長
光華小学校副校長を4年間務めたあと、2022年4月より同校校長に着任。東日本大震災を機に、山梨大学との共同研究により福島県で10年間運動遊びの指導を行い、子どもたちが「やらされる」のではなく「楽しい」「面白い」とのめりこんでいく体育の世界にふれる。当時の経験が現在の学校経営につながっているという

眞砂野氏は、2022年4月、同校校長に着任。学校教育目標を「まず、やってみよう! 〜私の学校は、私がつくる!〜」と掲げた。

「2030年、2040年と日本の未来を見据えたとき、子ども時代に骨太でたくましい主体性を育て、社会に出てからいつでもどこでも誰とでも自分の立ち位置が築けるような大人になってほしいと。チョーク&トークのような既存の学習も大切ですが、教員が働きかけて何かを引き出すのではなく、子どもたちが『やってみたい』と思ったことが存分にできる学校、『やってみたい』を支える教職員集団でありたいと考えました」

眞砂野氏は続ける。

「何回失敗してもOK、ちょっとの喧嘩もOK。私たち大人の役割は、事故などの危険性を排除しながら子どもたちの『やりたい』を見守り、後押しすることです。それを、子どもたち、教職員、保護者の方々に折に触れて伝えたり、対話の機会を設けたりしているうちに、『自分たちの学校は自分たちで作っていくんだ』という“空気感”のようなものが少しずつ醸成できたように思います」

PTAが主催した映画『夢みる小学校』の自主上映会に全教員で参加したり、「光華小の10年後について」をテーマに教員と保護者がごちゃまぜになって語り合ったりしたこともあったという。

学校としての方向性に人的、財源的リソースがマッチ

体育科の運動遊びが専門の眞砂野氏。「長年指導を重ねる中で、『教科としての体育』以外にも、『子どもたちが自由に遊びながら学ぶ体育』の世界があるのではないかと思っていました」という。

以前からプレーパークの存在を知り、その意義が、学校教育目標に通じる「子どもたちのやってみたいを大切にする」ということ、同校にプレーパークに知見がある教員が2名いたことから、校内にプレーパークを作るプロジェクトが具体性を帯びてきた。2023年5月頃のことだ。

「学校の予算内での実現は困難だったのですが、保護者の方、地域の方の協力をあおぎ、東京都が実施している『子供の「遊び」推進プロジェクト』に応募して採択いただき、プロジェクトをスタートさせることができました。

本校は、校内研究の主題に『光華遊学』を掲げています。遊学とは、遊ぶ学問。遊びと学びの掛け算で、子どもたちの主体性を最大限に生かしていこうという考えです。『光華遊学』の実現には、学校として目指す方向性に加え、人的リソースと財源的リソースのマッチングが不可欠でした。それらの条件が運命的に整ったことで、『光華遊学』を体現するプレーパークの建設が実現しました」

自分たちの場所になりつつある「プレーパーク」

2023年の夏休み明け。プレーパークオープンに向け、安全面への配慮を考え、まずは試験的にモンキーブリッジを作った。教員たちの見守りのもと、休み時間を利用して全クラスの児童に開放し体験させたところ、「これは大丈夫。いける!と思いました」という眞砂野氏。

「全クラスの子どもたちの様子を見守ったのですが、子どもたちは、『ちょっとこわい』と思ったら力をゆるめてみるなど、体を動かしながら自分の身体能力に合った遊び方を自ら見つけていくんです。子どもたちがやってみたいと思ったことを具現化できる場所になると確信しました」

2023年11月、「光華小プレーパーク」がグランドオープン。プレーパークの看板は眞砂野氏による手書きで、そこには「光華遊学」の思いがこめられている。

プレーパークの看板は眞砂野氏による手書き

オープンして約8カ月経った現在は、教職員や地域の保護者に加え高学年の児童が低学年の児童を見守ったりしながら、朝の始業前の時間や休み時間、昼休み、放課後の時間帯に、同校の児童に開放している。保護者から定期的にボランティアを募り、長時間にわたって思い切り遊べる期間も設けており、その際には火おこしや焚き火も行い、他校児童や未就学児の保護者にも開放している。

秋には火おこしや、たき火も行った。たき火でマシュマロを焼いている
(写真:眞砂野氏提供)

「光華小プレーパーク」は、地域にも開放している。

「近隣の保育園の散歩コースとして園児が遊びにきたり、障害者の団体が、プレーパークは利用しないまでも校庭に訪れたりしています。他地区の歴史あるプレーパークさんと比べるとまだまだ道半ばですが、本校の児童にとっては『自分たちの場所』となりつつありますし、地域における『ボーダーレスな場所』になりつつあることを実感しています」

学校にプレーパークがあることで広がる可能性

「光華小プレーパーク」は、「“学校にある”プレーパーク」としての可能性も広がっている。

「焚き火ができる場所もあるため、生活科として、焚き火の火でさつまいもやマシュマロを焼いたり、図工の授業で土山や砂場を使って造形遊びをしたり、幼保連携の特別活動として、プレーパークで低学年の児童と幼稚園・保育園児が遊んだりなど、さまざまな授業で活用されています。

また、高学年では、プロジェクト型学習で、約5カ月かけて校庭の一部を活用してドイツのミュンヘンを起源とする日本版『子どものまち』を作っているのですが、街の一角にプレーパークを取り入れてプロジェクトを進めています。プレーパークができたことで、遊びと学びの掛け算が確実に広がりつつあります」

学校全体に広がる子どもたちの「やってみたい!」

さらに、「学校教育目標の『まず、やってみよう!』に呼応する形でプレーパークがオープンしたことで、子どもたちの『やってみたい!』が学校全体に加速度的に生まれ、形にしていく機会が増えてきています」という眞砂野氏。

「子どもたちが、しょっちゅう校長室に直談判にくるんですよ。昨年度の6年生は、『卒業前に、学校で宿泊体験がしたいです』と言ってきました。タブレットを持参して、たくさんのアイディアを出してきましたね。担任の先生とも連携をとりながら都合20回くらいの打ち合わせを重ね、3月に1泊2日の体育館宿泊体験を実現しました。当日の夜は予想以上に寒かったのですが、東日本大震災のときに近くの学校の体育館に避難した人たちの思いを想像したりなど、貴重な体験ができたと思います」

3年生の児童が「プールを使ってメダカを飼ってみたいです」と相談にきたり、6年生の児童が、学校を会場に保護者がワークショップなどを行うイベントを開催するにあたり「私たちにもワークショップを開かせてほしいです」と提案にきたりなど、校長室はにぎやかだ。

「子どもたちの『やってみたい』はいつでもウェルカム。『どんどん来なさい』と呼びかけています」

今後の課題は、「光華小プレーパーク」の理念や実践をいかに継続、定着させていくかだという。

「僕たち公立の教職員には異動があります。(異動により)誰かがいなくなったらプレーパークもなくなってしまうのは無責任だと思いますので、地域の方や保護者の方にも可能な限り運営に入っていただき、持続可能な形を模索していきたいと思います。また、子育てサークルさんなど既存の団体にもプレーパークを使いたいという希望があれば、その方々の責任の範疇で使ってもらえるようなしくみも整えていきたいですね」

眞砂野氏から「光華小スピリット」と書かれた1枚の紙を見せてもらった。

〜「光華遊学」を実現する学校のために〜
・ 子どもの「安心」を大切にします
・ 子どもの「よき理解者であること」を大切にします
・ 子どもの「やってみたい!」を大切にします
・ 子どもの「できそうだ!」を大切にします
・ 子どもと「一緒に楽しむこと」を大切にします
・ 大人も「心身共に健康であること」を大切にします
(「光華小スピリット」より一部抜粋」)

などと記されている。

「地域の方が発案してくれました。『先生方は入れ替わってしまうかもしれないけれど、地域、保護者、先生方みんなで共有する光華小の“魂”のようなものを明文化して、それを代々受け継いでいけたらいいですね』と、提案してくれました。そこで、教員の意見をもとに原案をつくりました。

この『光華小スピリット』は、先日、学校だよりで保護者・地域の方にお披露目し、意見をもらいました。これが完成形ではなく、今後も必要に応じて手を加えながら、新しい学びを本校に残していくための土台としていけたらと思います」

学校が地域のハブステーションに

「学校は、『地域のハブステーション』であるべきだと思います」という眞砂野氏。

「近年、学校現場は人手不足、保護者は忙しくPTAなどのなり手不足、地域では地区委員さんなどの高齢化や固定化が進んでいます。このような中で大切なのは、学校と保護者と地域が融合していくこと。お互いがウィンウィンになる接点が必ずあるはずなので、例えば、運動会や文化行事、宿泊行事などを合同で行うなどにより、より密接に連携できるようになるのではないかと考えています。

教育理念を共有し、学校を『開かれた場所』として、さまざまな立場の人たちが相乗りしながら物事を進めていくことが、子どもたちの成長や地域社会の活性化につながるのではないでしょうか」

校庭にプレーパークを作った光華小学校は、学校教育目標や校内研究の主題とマッチして、まさに、学校中がプレーパークのような活気を帯びていた。

光華小学校の取り組みは、従来の学校教育にとらわれない、子どもたちの主体的な学びと地域とのつながりを育む新しい学校像の可能性を示している。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:長島ともこ撮影)