習い事をしている小学生は全体の84.2%
将来の役に立つことをさせたいと思い、スイミングやピアノ、英語などを習わせている親は多いのではないだろうか。
ニフティキッズが行った「習い事」に関するアンケート調査によれば、習い事をしている小学生は全体の84.2%を占める。

さらに習い事をしていると回答した小学生のうち「学習塾・くもん」に通う人の割合は43.3%と約半数にのぼる。これはすべての習い事の中でダントツの1位だ。2位のピアノとは8ポイントもの差がついている。

同調査では、小中学生に1週間のうちどのくらい習い事に通っているかも聞いている。週1日と答えた人が最も多く全体の26.3%、日数が多くなるほど割合は少なくなるが、週5日が11.3%、それ以上と答えた人が10.4%もいた。
「ぼーっとする時間」は、創造性を育むのに不可欠
習い事を通じてさまざまな経験が得られ、子どもの成長や可能性を広げることにつながるのは魅力である一方、近年“習い事漬け”の子どもも増えている。その背景には、共働き家庭が増えていることも少なからず関係しているだろう。
夫婦共働きの割合は、今や夫婦世帯全体の約7割を占め(令和5年版厚生労働白書)、子どもを産んだあとも仕事を辞めずに働き続ける女性が増えている。そんな中、放課後学童クラブ(以下、学童)代わりの預け先として習い事が選ばれているほか、中学受験対策の早期化など、さまざまな要因が絡み合っている。
民間学童保育「キッズベースキャンプ」を運営する東急キッズベースキャンプ代表取締役社長の島根太郎氏は、「土日や長期休みも含めて計算すれば、小学生の放課後の時間は年間約1600時間になる」という。これは、小学校の授業時間にあたる年間約1200時間を大きく上回る。
「放課後時間は、本来子どもが自由に遊びを選択できる、子どもたちにとっての“ゴールデンタイム”です。しかし、よかれと思って多くの習い事を入れた結果、子どもから自由な時間が奪われているように感じています。余白のないスケジュールは、子どもの成長に影響を与える可能性があります」(島根氏、以下同じ)
子どもにとっては、友達と遊ぶ時間、自分がやりたい習い事の時間の両方を確保できるバランスが非常に重要なのだ。なかでも問題なのは、平日の週5日を習い事で埋めてしまうケースだ。
「“習い事漬け”の大きな弊害の1つは、友達と遊ぶ時間がなくなることです。平日に毎日習い事が入っていると、友達から誘われても『習い事があるから行けない』という状況が頻発してしまいます。学校で約束して帰宅後に遊ぶだけでなく、約束もなく友達が突然家先に訪ねてくる。こうした予期しない交流こそ、子どもの社会性を育むうえでとても大切なのです」
友達と遊ぶことで、社会に出てから求められるコミュニケーション能力や人間関係形成力、バランス感覚といった「非認知能力」が育まれていくという。さらに、見過ごされがちなのが「ぼーっとする時間」の価値だ。
「大人は、子どもがただぼーっとしているのを見ると『何しているの!』とつい言いたくなりますが、その時間に子どもの脳はフル回転しています。例えば、頭の中の情報を整理したり、新しいことを空想したりといったように。脳科学的にも、ぼーっとする時間は創造性を育むうえで重要なことがわかっています」
これは仕事に置き換えても同様のことが考えられる。仮に、始業から終業まで1時間刻みでやるべきことを細かく指示されたら「少しは自分のプランで自由にやらせてほしい」と言いたくもなるだろう。
「子どもも同じです。常に時間割に沿って動かされるのではなく、自分で次に何をするか考え、選択する自由が大事。その試行錯誤の繰り返しこそが、子どもの自己決定能力を育むのです」

東急キッズベースキャンプ 代表取締役社長、キッズコーチ協会 代表理事
1965年東京都目黒区生まれ。中央大学卒業。輸入雑貨事業や自然食事業などを経て、2003年エムアウトに入社。心理学に関わる事業開発を経験し、小1の壁の問題解決と非認知能力の教育を志し、2006年キッズベースキャンプを創業。民間学童保育のパイオニアとして業界を牽引。2008年12月には東急グループ入りし、東急グループの子育て支援事業の中核企業として展開を開始。民間学童保育協会、東京都学童保育協会で理事を務める。保育士資格保有
(写真:東急キッズベースキャンプ提供)
「楽しい」の裏にある、子どもの本音
2人の子を持つ筆者には苦い経験がある。下の子の出産との兼ね合いで、上の子の預け先を確保するために、さまざまな習い事をほぼ毎日入れていた時期があった。
本人がそこまで乗り気ではなく、「友達もまだやっているから」という理由で、なんとなく続けていた習い事は、やめるのにも一苦労した。こうした悩みは決して特別なものではないだろう。
「実は、子どもは親のことが好きであればあるほど、本心とはうらはらに遠慮してしまう傾向があります。体験教室に連れて行って『楽しかった?』と聞けば『楽しかった』と答えますし、やめるか続けるかを問えば『続ける』と言う。しかし、その返答が本音とは限らないのです」
前出のニフティキッズの調査では、習い事をしたことがある小中学生のうち、7割近くが「今までにやめたいと思った習い事がある」と回答している。習い事を続けるかやめるかを判断するには、何を基準にすればいいのだろうか。
「お子さんが心の底から楽しんでいるか、スキルが上達することにモチベーションを感じているか、しっかり見てあげることがポイントです。もし、友達の影響などで『ほかのことをやってみたい』と言い出したら、それも1つのサイン。既存の習い事からシフトする、スケジュールに余裕があるなら最初は並行して挑戦する、という選択肢を検討してもいいでしょう」
また、習い事を長く続けるとメダルやトロフィーがもらえるという理由から、なかなかやめられない、やめどきがわからなくなる子どももいると聞く。
「それは心理学でいうところの『外発的動機付け』にあたります。アメをもらえるから頑張る、という状態です。メダルやトロフィーがきっかけでも、その習い事が好きになり、自らやりたいと思う『内発的動機付け』に変われば理想的。しかしそうでなければ、私は早くやめて、本当にやってみたいことに時間を使うほうがよいと考えます」
習い事は週に何日が適切なのか……という問いに対して、画一的な正解はない。子ども自らの意思で、とことん極めたい習い事が見つかるケースもあるからだ。
島根氏は、自身が運営する学童に通っていた小学生のエピソードを紹介してくれた。「以前、学童で企画した世界的なバレエダンサーのイベントに感銘を受け、『もっとやりたい』と自らバレエに専念する道を選んだ子がいました。彼女は学童を離れることになりましたが、小学生ながら将来の夢を見つけられたことにスタッフ一同大変喜びました」。
子どもの能力を伸ばす「遊び」とは
習い事で圧倒的な人気を誇る学習塾・くもん。その背景には、年々過熱する中学受験に対する保護者の焦りという側面もありそうだ。
「わが子の将来を心配するあまり、『勉強しないと落ちこぼれて将来大変なことになる』と、過剰なプレッシャーをかけてしまっている保護者も少なくないようです。その言葉自体は1つの真実かもしれませんが、子どもの人生は、中学受験や大学進学がすべてではありません」
島根氏によれば、子どもの自己コントロール能力は、時間をかけてゆっくりと発達していくものだという。「小学生の発達段階では、できなくて当たり前。それなのに親が『なんでできないの!』と叱ってばかりいては、子どもの自己肯定感は下がってしまいます。子どもの非認知能力を伸ばすには、自信をつけて自己肯定感を高めることが不可欠です」。
習い事以外で子どもの能力を伸ばす方法を尋ねると、「とっておきの遊びは『鬼ごっこ』」だという。
「鬼から逃げるためには、瞬時に頭の中で状況を判断し、体を巧みに動かして回避しなければなりません。走る、止まる、切り返すといった多様な動きによって、運動能力をバランスよく鍛えることができます。サッカーやバスケットボールなど、あらゆるスポーツの基礎となる動きが、鬼ごっこには凝縮されているのです。さらに友達と遊ぶ中で主体性や判断力、コミュニケーション力などさまざまな力を鍛えることができます」
習い事はタダというわけにはいかないが、鬼ごっこならばお金をかけずとも、仲間さえいればすぐできるのも魅力。鬼ごっこに限らず、家庭でも子どもの能力を伸ばす工夫を重ねたいところだ。最後に、島根氏はこう締めくくった。
「人間は、自分の中に眠る可能性の扉をほとんど開かずに、一生を終えてしまうといわれています。親御さんには、お子さんの扉を一枚でも多く開けるサポートをしてもらえたら。わが子には無限の可能性があると信じて、将来の人生設計の土台づくりを見据え、さまざまな体験の機会を与えてほしいと願っています」
子どもが自分で考え、判断できる「余白の時間」を大切にすること──。それが、子どもが自らの道を切り開いていく、本当の「生きる力」につながるはずだ。夏休みは絶好の棚卸しの機会。親子でじっくり話し合い、放課後時間の使い方を一度見直してみてはどうだろう。
(文:せきねみき、注記のない写真:JIRI / PIXTA)