自宅近くで利用できる施設の再確認を
夏休みがいよいよ目前に迫っている。長い夏休みをどう乗り切ればいいのか、頭を悩ませている親は多いのではないか。
働く女性の増加により、日本の女性の労働力率を示す「M字カーブ」は著しく浅くなり、もはや台形に近づきつつある。共働きが増え、小学生を放課後や長期休暇中に預かる「放課後児童クラブ」(以下、学童)の登録児童数は全国で151万9952人、待機児童も1万7686人と増加傾向にある(こども家庭庁「令和6年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」〈2024年5月1日時点〉)。

とくに保育園から学童に切り替わる「小1の壁」、学童の対象年齢から外れることもある「小4の壁」に直面し、希望していても学童を利用できない、また子どもが学童に行きたがらないなどの理由で「学童なし」で夏休みを過ごす予定の家庭もあるだろう。
「子どもが学童に行っていない場合、一般的な代替手段として考えられるのは、地域の放課後子ども教室や児童館です。また、図書館や公民館、夏休み期間中は小学校の体育館・校庭や図書室などの施設が開放されることもあり、それらをうまく活用するのもいいでしょう」
こう話すのは、民間学童保育「キッズベースキャンプ」(以下、KBC)を運営する東急キッズベースキャンプ代表取締役社長の島根太郎氏だ。
放課後子ども教室とは、すべての児童を対象として、自治体が地域住民と連携して学習支援や遊び、体験活動などを行っている子どもの居場所だ。児童館でも夏休み期間中は、子どもが「孤食」とならないよう館内で持参したお弁当を食べることができるところもある。
近年は全国的に真夏日・猛暑日が続き、子どもを屋外で長時間遊ばせると熱中症の心配も出てくるため、こうした自宅近くで利用できる施設について改めて調べておきたいところだ。
子ども向け体験プログラムのスポット利用もおすすめ
スポットで、子ども向け体験プログラムやサマースクールを利用するのもおすすめだ。とくに夏休み期間中は、一般企業なども含めて、家庭ではなかなかできないプログラムを用意しているところは多い。最近では、工場見学や職業体験、農業や漁業などの一次産業体験など、親子で参加できるものもある。
また民間学童を利用するのも1つの手だ。島根氏は「民間学童の最大のメリットは、保護者の就労要件などを問わず、誰でも利用できる点にあります」と話す。
単に子どもを学童に預けるだけではなく、せっかくの長期休暇なのだから、子どもの得意なことや好きなことを発見する機会にしたいところ。幼い頃の体験が、大人になった今の自分をかたちづくっていると感じる経験は誰にでもあることだ。
「KBCでは子どもの世界が広がるきっかけになればという思いから、特定のスキルを教える習い事ではなく、バリエーション豊かな体験プログラムを用意しています。例えば、プロのアーティストと絵を描いたり、農園で野菜を収穫したりといったものです。夏には2泊3日のサマーキャンプをはじめ、自由研究のテーマにもなる特別講座を開催します」

さまざまな体験ができるのは魅力だが、費用負担がかさむのではと心配な人もいるだろう。だが、島根氏は、お金をかけたり遠方へ出かけたりするのが難しい場合でも、アイデア次第で家庭でも充実した体験がかなうと指摘する。
「例えば、家事を本格的に任せてみるのもいいでしょう。料理や洗濯、掃除など、普段大人がしていることを一緒に挑戦してみる。子どもは意外と大人のまねをしたがるものです。家事の大変さがわかり親への感謝の気持ちが芽生えるかもしれませんし、何より生きる力が身につきます」
親子で一緒に買い物に行って、農産物の生産から販売までの仕組みを学ぶ、夏祭りなどで決まったお小遣いの中でやりくりし、金銭感覚を養うトレーニングをするなど、身近な生活の中にもさまざまな学びがあふれている。
「子ども自身も、そして親でさえも、その子にどんな才能や可能性が眠っているかはわからないものです。大人中心のリアルな社会に触れる機会は、子どもにとって大きな刺激になります。“面白そう!”と思えるものを親子で探し、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか」
宿題なしでも大丈夫? “やらされ感”なく学習習慣を維持するコツ
小学生の夏休みといえば、宿題も気になるところだろう。大量のプリントや自由研究が課される学校がある一方、最近では中学受験を見据えて塾に通う子どもに配慮し、まとまった宿題を出さない学校も増えてきている。
「宿題がない環境は理想的ですが、長期休みの間に学習習慣が途切れてしまうと、2学期につまずいてしまう可能性があります。そうならないためにも、起床・就寝時間は学校があるときと変えず、生活習慣の中に学習を組み込むことは大切です。学習の時間を1時間程度と短めに設定し、なるべく午前中の早い時間帯に終えてしまいましょう」
また夏休みは、苦手な科目や単元を見直す絶好の機会だが、2学期に習うところを予習しておくこともできる。島根氏は、子どもの学習に対するモチベーションを高める手段として、予習は非常に有効だという。
「授業の内容をあらかじめ理解しておくことで、学校で自信を持って手を挙げられるようになります。先生にほめられ周りからリスペクトされると、親から言われなくても自発的に勉強したいという気持ちになります。復習も予習も、すべての科目を網羅する必要はありません。お子さんがどこで壁にぶつかりそうかを見極め、そこを重点的にサポートしてあげるといいでしょう。また自由研究など、子どもの興味・関心・やってみたいことを実現してみる探究的な学びも、子どもの主体性を育む機会となるのでお勧めです」
プランニングは「子どもの自己決定とスケジュールの余白」がカギ
夏休みのプランを立てる際、「1年生など慣れないうちは、選択肢を親が提示してあげることも必要」と島根氏は話す。
子どもだけでは気付けないことがたくさんあるからだ。ただ、親の関与は成長とともに減らし、プランを子ども自身に考えさせ、任せてみることが大切だという。
子どもに任せるのは不安に思う人もいるだろうが、大人が立てる新年の目標も途中で忘れてしまったり、達成できなかったりすることは多々ある。たとえ、失敗したとしても、それもかけがえのない経験になる。
「重要なのは、計画する際に必ず余白を残しておくことです。予期せぬトラブルや、新たにやりたいことが見つかったときに対応できる時間の余白が、心の余裕につながります。子どもが自分で立てたプランで『充実した夏休みだった』と思えたなら、これほどすばらしいことはありません」
親の役割は、計画を詰め込みすぎないよう「これくらいにしておいたら達成しやすいんじゃない?」と声をかけ、失敗したときに本人が自信を失わないようにサポートしてあげることだという。
島根氏は「子どもに自己決定させることは、いわば“人生プランの壮大な練習”です。子どもが自ら計画し、思いどおりにいかない中で試行錯誤する。この繰り返しが、子どもの自立心を育むのです」と強調する。

東急キッズベースキャンプ 代表取締役社長、キッズコーチ協会 代表理事
1965年東京都目黒区生まれ。中央大学卒業。輸入雑貨事業や自然食事業などを経て、2003年エムアウトに入社。心理学に関わる事業開発を経験し、小1の壁の問題解決と非認知能力の教育を志し、2006年キッズベースキャンプを創業。民間学童保育のパイオニアとして業界を牽引。2008年12月には東急グループ入りし、東急グループの子育て支援事業の中核企業として展開を開始。民間学童保育協会、東京都学童保育協会で理事を務める。保育士資格保有
「動と静」「個と集団」の最適なバランスを見つける
そして、子どもが気持ちよくのびのびと生活するうえで大事な点として、島根氏は「動と静」「個と集団」という2つのキーワードを挙げる。
「活発に動きたい日もあれば、一人で静かに過ごしたい日もありますから、これらのバランスを意識することが重要です。『動』の活動、つまり体を思いきり動かす遊びは、子どものストレス発散のために欠かせません。午前中や夕方など比較的過ごしやすい時間帯で、少し体を動かすだけでも、子どもの心は驚くほど安定します。何日も室内で静かな遊びばかりしているとストレスがたまり、些細なことでケンカが起きやすくなるのです」
「個と集団」のバランスについては、島根氏は次のように語る。「一人でじっくり本を読んだり、工作に没頭したりする『個』の時間は、集中力や探究心を育てます。一方で『集団』での活動は、コミュニケーション力や社会性を育むうえで不可欠です。一人で過ごす時間も大切ですが、それだけでは得られない経験が『集団』の中にはあります。とくに、親以外の大人たちとの関わりを積極的に持てるといいですね」。
この「動と静」「個と集団」の最適なバランスは一人ひとり違うというから難しいが、保護者が子どもの様子を見ながら調整してあげたい。
夏休みは、親にとっても子どもにとっても、多くの可能性を秘めた特別な時間だ。計画を詰め込みすぎず余白を持って、親子で創意工夫しながら楽しめれば、きっと成長に満ちた夏になるはずだ。
(文:せきねみき、注記のない写真:東急キッズベースキャンプ)