偏差値40台から筑波大も、大学進学率10%上げた都立王子総合高校の探究学習 見逃したくない「生徒が最も成長するとき」とは

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2018年の高等学校学習指導要領改訂で、位置づけや重要性が改めて示された「総合的な探究の時間」。具体的な取り組み内容は各学校に任されており、その概念も抽象的だ。「多忙の中、多人数学級も多く受験指導もある高校で、適切な探究学習など実施できるわけがない」――そんなふうに、やりづらさを訴える声も多く聞かれる。だが、「探究って、そんなに手間はかかりませんよ」とほほ笑む教員がいる。東京都立王子総合高等学校で美術教員を務める望月未希氏だ。

「生徒自身が物語を編む」探究学習で、進学実績が上昇

東京都立王子総合高等学校は、創立12年を迎える全日制総合学科だ。偏差値は50を少し切るぐらいで、大学進学率は例年40%程度で推移していた。

そこに変化をもたらしたのが、美術教員の望月未希氏だ。2021年度に同校に赴任したが、前任校でも探究学習の「社会に開かれた教育」を用いた手法で大きな成果を挙げていた。

結論から言えば、同氏が進路部主任に着任した22年度の卒業生から、全体の大学進学率は前年度比10%以上アップし、11年の学校創立以降、初めて50%を超えた。さらに7年ぶりの国公立大学合格者が出た。23年度卒業生の中にも、すでに筑波大学への進学を決めた生徒もいる。

望月未希(もちづき・みき)
東京都立王子総合高校 美術科主幹教諭。共著に『もし「未来」という教科があったなら―学校に「未来」という視点を取り入れてみた』『高等学校 教科と探究の新しい学習評価』(ともに学事出版)などがある
(写真:望月氏提供)

望月氏は、同校に着任して間もなく気づいた改善点があるという。それは「生徒たちが学習による物語を編むことができていない」ということだ。

「多様な授業が選べるのは総合学科のメリットでもあります。しかし、語学や芸術、サイエンス系といった授業がバラバラに点在し、スキルアップのための選択科目も『ああ面白かった』で終わってしまって、いわばカルチャーセンターのような状態になっていました。キャリア教育も学年任せの部分があるなど担当教員が細切れに行っており、入学から卒業までの一貫したキャリア教育にはなっていなかったのです」

望月氏の考えるキャリア教育とは、早期に職業選択をさせ、そのためにどんな大学に行くべきか、どんな資格を取るべきかを考えさせるものではない。

「生徒が『生涯学び続けたいことは何か』を考え、それをかなえるための進路に導くことが重要です。そのためには社会を知り、自分なりの展望を持つ必要がありますが、私たち教員が学校の中で示せる経験値にはあまりにも偏りがあります。『学校を社会に開く』探究学習では、生徒自身が『なぜ学ぶのか』ということを実感しやすい。つまり学習によって自分の物語を編むことができるということで、そのため、進路指導にも非常に効果があるのです」

前任校での成果を知る校長の采配によって、望月氏は王子総合高校着任2年目から、進路部主任に抜擢された。そこでまず、キャリア教育は進路の専任教員が全学年にわたり一貫して担当する仕組みに変更。さらに具体的な探究学習の手法を取り入れることにした。

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