立ちはだかる“塩分2g”の壁

中田智子(なかだ・ともこ)
栄養教諭・管理栄養士。現在、栃木県栃木市大平学校給食センターに勤務する傍ら、日本栄養士会理事として学校健康教育職域を担当する。 2004年学校給食優良学校等文部科学大臣表彰(文部科学省)、07年とちぎ地産地消夢大賞を受賞(とちぎ地産地消県民運動実行委員会/会長栃木県知事)、08年全国地産地消推進協議会会長賞を受賞(全国地産地消推進協議会)、農林水産省「地産地消の仕事人」に選定。 09年とちぎ教育賞を受賞(栃木県教育委員会)、11年優秀教員表彰(文部科学省)、21年栃木県学校給食優良学校等表彰において「学校給食功労者」を受賞

栄養教諭とは、栄養に関する専門性と教育に関する資質を併せ持つ教育職員のこと。学校給食の管理を本務とする学校栄養職員とは異なり、学校における食育の推進役を担っている。主な業務の1つは、学校栄養職員と共に学校給食の献立を作成することだ。限られた予算の中で、“学校給食が家庭の食事の見本になること”を念頭に、栄養バランスに配慮したメニューを考えなければならない。

学校給食の栄養面において、最も頭を抱えるポイントが塩分量だ。小学生の給食1食分のナトリウム(食塩相当量)摂取基準は2g未満(※1)。一般的に2gのハードルはかなり高く、さらに子どもたちの好みの味を保つのはとても難しい。中田氏も「一気に味を薄くすると、残食が増える懸念があります」と頭を悩ませる。

※6歳〜7歳については1.5g未満(2021年改正)

学校給食での人気メニューは、揚げパン・カレー・唐揚げなど、昔からあまり変わっていない。基本的に油と甘いもの、またはしょっぱいものという組み合わせが好まれる。そんな中、減塩のために栃木市では積極的に“ご飯食”を取り入れているそうだ。「ご飯には塩分がなく、和食の献立でだしを利かせればさらに塩分を抑えられます。また、栃木は米の産地でもあるので、地産地消にもつながる。パンは子どもたちに人気ですが、パン自体に塩分が含まれていることもあり、現在栃木市では週に1~2回までにしています」(中田氏)。

とある児童の父親の農家から仕入れているカクテルトマト。給食センターへの搬入は児童が手伝うこともあるという

食品ロスに農福連携、食料高騰と課題は山積み

給食は多くの子どもたちにとって、学校に通う楽しみの相当な部分を占める。そのため、健康や社会問題に配慮しつつも、何より子どもが喜ぶメニューであることが求められる。実際に栃木市では、食品ロスを減らしてSDGsを意識した取り組みと、ユニークなメニューとの両立が実現している。例えば、形が悪かったり熟れすぎたりして売り物にならない野菜・果物をペースト状にして、学校給食に活用している。

「給食用のジャムなどを販売する栃木市のタカ食品工業さんに、地元で採れたトマトやイチゴ、ブドウなどの加工をお願いしています。トマトピューレはパスタソースやミネストローネなど幅広く使えますし、イチゴやブドウのペーストはクリームサンドのほか、栃木のコメから作った米粉パンの生地に練り込んで出すこともあります。“いちご米粉パン”は子どもたちに絶大な人気があるんです」(中田氏)

イチゴゼリーが出た「県民の日」の給食と、ミネストローネとイチゴジャム
中田氏は学校給食を通じた国際交流にも取り組んでいる。韓国のビビンバやタイのガパオライスは生徒にも人気。食育の授業のほか、校内放送で世界の料理にまつわるエピソードを流し、世界史や地理の知識とつなげている

また、「農福連携」(農業と福祉の連携)も積極的に行っている。障害者が働く施設でイチゴのヘタを取ってもらい、作業済みのものをタカ食品工業が買い取るのだ。これで“いちご王国・栃木”の地域活性にもつながる。

一方で、栄養教諭はその土地ならではの課題にも対応しなくてはならない。「栃木は海に面していない県なので、魚の値段が高いのです。似たような状況にある地域では、小さくて市場に出せない“未利用魚”を活用し、何とか給食費を抑えているところもあります」。

最近では食材や調味料が軒並み高騰している。1年の給食費内で、年度末最後の給食まで質と量を保ち続けるには相当なバランス感覚と緻密な計算が必要だ。

アレルギーの子どもは激増も、栄養教諭の数は変わらない

こうした献立作りや管理のほか、栄養教諭の業務はさらに食育の授業の実施や個別の食物アレルギー対応など多岐にわたる。現在中田氏は、小学校4校・中学校2校の計6校を担当し、食数で約2400食、約2300人もの児童・生徒を受け持っている。

「食育の授業をするにしても、担当する学校の数が多いと移動だけでかなりの時間がかかり、ほかの業務にシワ寄せがきてしまいます。また、個別対応が必要な食物アレルギーを持つ子どもは年々増えているのに、その責任を負う栄養教諭の数は一向に増えません。純粋に、栄養教諭や学校栄養職員が足りていないのです」

栃木市では県の基準に従い、各学校に栄養教諭と学校栄養職員を割り当てている。しかし、その多くが中田氏と同様に複数校を掛け持ちしている状況だという。「本来、栄養教諭も各学校に1人ずつ、専属で配置すべきです。市が独自に予算を組んで学校栄養職員を雇い、全校に配置している自治体もあると聞いています」(中田氏)

人員に余裕があれば、食物アレルギーがある子どもたちに手厚い専門指導をしたいところだが、現状では一人ひとりの代替食を考えて、手渡しミスがないように段取ることで精いっぱいだそうだ。

「成長期にどう栄養を補うか、いつ自立するかなど、その児童・生徒の成長を成長曲線で確認しながら、もっと個別的な相談や指導をしたいのです。また、万が一アナフィラキシーが起きたときに備えて、例えば補助治療剤エピペンの使用法などを含め医師や薬剤師と連携していくことも栄養教諭の仕事の1つです。子どもたちの命を預かる仕事なので、もっと人員が必要です。栄養教諭が何者であるかを伝え、栄養教諭の担い手を増やすことも、私の大切な役目だと感じています」(中田氏)

中田氏は「第8回アジア栄養士会議」(ACD2022)のシンポジウムに、文部科学省の審議官やベトナム人の栄養士とともに登壇(写真左)。また、同氏が理事を務める日本栄養士会は「東京栄養サミット2021」にて「ラオス人民民主共和国の栄養改善プロジェクト」を発表し(写真右)、ラオスの公立小学校に学校給食制度を導入すべく2030年にかけて人材交流や栄養士養成の支援をする

栄養教諭の配置拡大については明るいニュースもある。2023年2月、自民党「環境・温暖化対策調査委員会 食品ロス削減PT」(堀内詔子座長)の有識者ヒアリングにて、日本栄養士会の鈴木志保子副会長が栄養教諭の重要性をプレゼンテーション。その結果、同PTが岸田文雄内閣総理大臣に申し入れた提言「食品の寄附や外食時の持ち帰りが当たり前の社会に向けて~食品ロス削減推進法の見直し~」(23年4月21日)に、次の一文が反映されたのだ。

「学校の教科等を通じて、食品ロスの削減に関する理解と実践を促すためにも、学校給食を実施する学校への栄養教諭の配置拡大を進めること」

現在、法改正も視野に政府内で検討が進められている。また、23年6月16日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)では、経済社会の活力をさせる教育・研究活動の推進において「栄養教諭を中核とした食育を推進する」との一文も盛り込まれた。

食べることは生きること。給食を心待ちに学校に通った人は多いだろう。その大切な時間と、子どもたちの命・健康を守る栄養教諭にはもっと焦点が当てられてしかるべきだ。

ガパオライスのレシピが載った「食育だより」

(文:せきねみき 編集部 田堂友香子、写真:中田氏提供)