「物価が高くなり食費に回すお金が減った」
日本の子どもの7人に1人が、貧困状態にあるといわれる。2020年に厚生労働省が公表した「2019年 国民生活基礎調査」における子どもの貧困率は13.5%だったが、学校の1クラスを35人とすれば5人は貧困状態ということになる。
この数字に実感を持つことのできる人は、はたしてどのくらいいるだろうか。最近はメディアでも子どもの貧困が大きく取り上げられるようになったが、日本における子どもの貧困はなかなか外から見えないのも特徴といえる。努力すれば何とかなる、自己責任と考える傾向があり、実際に生活が苦しい状況にあっても当事者は声を上げにくい状況にあるからだ。
子どもの貧困という場合は、多くが相対的貧困を指し、世帯の可処分所得が全体の中央値に満たず、その国の生活水準と比較して貧しい状態をいう。生きていくのに欠かせない家や食べ物がないような貧困は絶対的貧困とされるが、今や日本でも長引くコロナ禍や物価高騰の影響で食べる物に困る世帯も増えている。
このたび認定NPO法人キッズドアが公表したアンケート調査結果を見ると、それがより深刻になっていることがわかる。調査対象は、キッズドアの困窮子育て家庭向け支援「キッズドアファミリーサポート」に登録があり(登録者の87.1%が母子家庭、57%が21年の年間世帯所得が200万円未満)、22年夏の食料支援に申し込んだ世帯2084件だ。
コロナ禍においては、不安定な就業形態にある非正規雇用のほうが離職や収入減の影響を大きく受けるなど、低所得世帯ほど厳しい状況に陥った。調査では新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染が蔓延した20年1月より前と比べた世帯全体の就労収入について聞いている。その結果、「減少し、そのまま」という世帯が50%、「減少後、現在は回復途上」の19%と合わせると、全体の約7割がコロナ禍で収入が減少し、今も厳しい状況にあることがわかった。
「コロナ禍で失業して以来、短期の派遣をつないで生活をしている。生活が安定せずに毎日が不安。今は経済的な支援がいちばん欲しい」「コロナ禍で仕事を辞めてしまい、その後自分の体調が悪くなり仕事ができない状況。遺族年金だけでは生活が困難」「今日コロナに感染した。来月はお給料がないに等しい。食料支援はありがたいです」など、コロナによる収入減で生活に大きな影響が出ていることが自由回答からも見て取れる。
こうした状況に物価高が、さらに追い打ちをかけている。「物価が高くなり食費に回すお金が減った」「物価高騰により、生活が苦しくなった。電気代の値上がりは本当に苦しい」「物価が上がっていて給料が伴わず生活困難が続いている」など、物価上昇により食費や光熱費、ガソリン代などの生活コストが上昇しており、猛暑にもかかわらず光熱費を抑えようと冷房使用を控えるといった意見も見られるという。夏休みになると給食がなくなることから、「夏休みが怖い。給食がなくなるので栄養バランスや食費の増加が恐ろしい」という回答もあった。
困窮家庭ではコロナの影響が長期化
調査では、コロナによる子どもへの影響も聞いている。最も多い回答は「学力が落ちた」32%に続き、「授業についていくのが大変になった」が25%、「学校に行くのを嫌がるようになった」が22%だった。「学校を休みがちになった」(19%)、「学校に行かなくなった」(8%)という回答もあり、不登校なども心配される。
今年3月、文部科学省は学力の変化を見る「経年変化分析調査」(小学校6年生〈国語・算数〉と中学3年生〈国語・数学・英語〉に実施)の結果を公表し、コロナによる長期休校の影響は顕著に見られなかったとした。
だが、休校中やその後についても、家庭内や塾などからフォローが得づらい困窮家庭では、学校の勉強だけで学びの遅れを取り戻すことが難しかった可能性がある。また前出のキッズドアの調査では、コロナによる子どもへの影響について、全体の7割が悪い影響があったと回答しており、「悪い影響があり、現在も継続」が37%もいることからも、コロナの影響が長期化していることがわかる。
夏休みなどに多様な経験をする機会も不足しがち
こうした困窮家庭の子どもたちは、夏休みをどのように過ごしたのか。調査では、夏休みに予定しているアクティビティーについても聞いているが、「とくになし」が49%だった。もちろん、コロナ禍で旅行などを控えている可能性はあるだろう。だが、困窮家庭の子どもたちは、経済的な理由で教育だけでなく、多様な経験をする機会が不足しがちだといわれる。
その傾向は、子どもの習い事や部活動の状況について聞いた項目からもわかる。今の子どもは忙しく「1週間のうち習い事がない日はない」という子も珍しくないが、困窮家庭では「(塾を含む)習い事や部活動をしていない」が39%だった。
調査では、習い事や部活動で保護者が困っていることも聞いているが、「月謝などの費用」が69%で最も多く、「ユニフォーム・シューズ・楽器などの用品」が51%、「習い事・部活動のための食事やおやつ」が30%、 「遠征・合宿などの費用」が27%と費用に関する項目の数字が高かった。
実際、経済的な理由で習い事や部活動に支障が出た経験についても聞いており、「好きな習い事や部活動をやらせてあげられなかった」が51%で最多で、「ウェアや靴、楽器などを我慢してもらった」が46%、「習い事や部活動をやめてもらった」22%、「遠征・合宿に参加させてあげられなかった」15%だった。
「ウェアや道具など、中古でも構わないので支援いただけると助かる」「クラブ活動や習い事に対して、一律で少額でも補助いただけると非常に助かる」「習い事、部活費用のために児童手当を高校卒業まで延長してほしい。金額も上げてほしい」などの費用や購入の補助を求める自由回答もあった。
「泳ぐのが苦手でスイミングを習いたいと言っているが、月謝が用意できない。無料で夏場だけでも教えてもらえるところがあれば……」「プログラミングをやりたがっているが、月謝が高くて受けさせてあげられません。どこか近所のコミュニティーセンターなどで格安で習えないか探している」「高校生の塾が高額で行かせられないので、オンラインで教科ごとなど専門的に支援してもらえる場所があると助かる。教育系のYouTube動画などを見ているがより詳しく質問などできたら助かる」など、子どもの要望を費用面から断念せざるをえず、無料または安価にできる習い事や体験の場を求める声が多くあった。
現在、学校の部活動は運動部も文化部も、地域移行に向けた準備が進められている。部活動のよいところは、困窮家庭も含めすべての子どもたちが学校を通じてさまざまな経験を積める機会があることにあった。それは、これまで学校の先生がボランタリーで担ってきたから成り立っていたわけだが、今後外部の指導者や企業などが部活動を運営することになれば、家庭にもこれまで以上の費用負担が発生する可能性が大きい。
必要なところに適切な対価を支払って部活動を運営することは大切だが、困窮家庭の子どもたちが費用を理由にスポーツや文化、芸術に親しむ機会が著しく損なわれることがないよう経済的な支援を併せて検討することが何より必要だろう。
子どもの貧困の状況、必要な支援を継続的に把握するには
こうした調査を通じて、キッズドア理事長の渡辺由美子氏が繰り返し訴えているのは「子ども関連予算の確実な増額と、高校生の子どもを持つ家庭への支援強化」だ。
日本は、ほかの先進国と比べて子ども関連予算が相対的に低いのはもとより、児童手当や医療費などのいろいろな支援が中学生で終わってしまう。東京都が2023年度から医療費の無償化を高校生まで拡大する方針を決めたが、子育て家庭に厚く予算を配分する自治体が増えることを期待したい。
また今回、渡辺氏は「どうしてこういう調査を私たちがやらなければならないのか」と声高に訴えた。確かに子どもの貧困については、昨年末に公表された内閣府の「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」が全国的に行われた初めての調査だ。
内閣府も、この調査票を基に全国の自治体が子どもの貧困調査を実施することを期待している。どのくらいの自治体が追随するかはわからないものの、子どもの貧困がどのような状況にあるのか、必要な支援は何なのかを継続的に把握して早急に対応していくことが必要ではないか。
子どもの貧困は、教育機会の差、多様な経験をする機会の差となり、学歴や就職、収入など将来にわたってあらゆる格差を広げてしまう。それがひいては貧困の連鎖にもつながる。機会の平等がない中で、「自己責任」は成り立たない。今、貧困にある子どもの支援が、将来の日本に対する投資と考え、社会全体の問題として子どもの貧困を考えるべきではないだろうか。
※自由回答は一部抜粋、表現の調整をしている箇所があります。
(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:はやけん / PIXTA)