今回、公表された「学校再開後の学習への取組状況等の調査結果」は、2020年8月に県内の公立小・中・義務教育学校1058校(さいたま市立を除く)に対して、埼玉県が独自に行ったものだ。その中で、まず目を引いたのがICTの活用状況である。
すべての学校が臨時休業期間以降、どこかのタイミングでICTを活用していた。だが、臨時休業期間中にICTを活用していた学校のうち、通常登校再開後も継続してICTを活用しているのは小学校で48.1%、中学校でも48.6%とともに半分以下だった。また、学校再開後におけるICTの活用形態も、メールや学校のHP等を使って課題を配信したり、授業等の動画配信を行ったりすることがメインで、同時双方向性のあるオンライン学習に取り組む学校は1割程度にとどまった。
教員のICT活用能力差にも問題が
さらに、小学校では教員の大部分がICTを活用していたという学校が7割以上あるのに対し、中学校では半分以下。2割以下の教員しか活用していなかったという中学校が、2割以上に上った。その理由について学校側は「ICTの活用能力が高い教員はいるものの、教員の活用能力の差が大きい」と認識している割合が高く、「端末のハードやネットワーク環境が整っていない」や「準備にかなりの時間が割かれるため、教員の負担が増えている」という回答も多かった。
今冬は、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行が懸念されている。再び学校が臨時休業となった場合、家庭学習支援をどうするかとの問い(複数回答有)には、「紙媒体の課題を課す」とする学校が9割以上と圧倒的だった。次いで授業動画等の活用が挙げられており、「同時双方向のオンライン授業(Zoom、Google Meet等の活用)」や、「同時でなくても双方向の課題配信・把握(Google Classroom、Microsoft Teams等の活用)」を行う予定の学校は3割程度にしかすぎなかった。臨時休業の際の課題の受け渡しや回収等も「登校日を設けて対応する」という学校は8割前後。ここでもオンラインによる双方向の課題配信を活用する方針の学校は少なかった。
こうした問題について、埼玉県教育局は「ICT機器の活用は、子どもたちの学びを継続するうえで有効であるだけでなく、Society 5.0を生きていくための資質・能力を育む教育を実施するうえで不可欠」との見解を示している。そのためにも「特定の教員だけでなく、組織的・教科横断的にICTの活用に取り組むことが必要」とし、教員のICT活用の能力差解消に向けて9月に「ICT教育ガイドライン」を策定。各教科におけるICT活用の具体事例を掲載し、校内研修等で活用してもらうよう働きかけているという。
今後についても、県内のICT活用事例を収集、埼玉県立総合教育センターのWebサイト内にデータを蓄積し、各学校での活用を図っていくとしている。12月には小中学校教員を対象に「G-Suite for Education」等の活用についての研修を実施予定など、すでに具体的な改善策を講じている。また、ハードウェアやネットワーク環境については、GIGAスクール構想の推進により20年度内に進展する見込みだ。
授業時数が60時間以上不足する学校も
次に教育指導についてだが、小6・中3教育課程について調査したところ、どの学校でも通常どおりの授業が実施できなかったことで、授業時数が欠けており、それを補うための取り組みを行っている。この欠けた授業時数を確保するための方法として、長期休業日の短縮に加えて、学校行事やその準備に係る時間の見直しを挙げる学校が多い。
臨時休業で欠けた時数から学校再開後に補った時数の差を見ると、2割程度の学校では欠けた時数を補うことができていることがわかった。だが、欠けた時数が確保した時数を約2週間分(約60時間分)超える学校も2割程度見られた。それでも、全校が年度内に教育課程を終える予定と回答しており、今後どのような工夫で教育指導を行っていくのかが気になるところだ。
埼玉県教育局では、そもそも「授業時数の多寡のみで、学校の取組状況を評価することは妥当ではない」と考えている。臨時休業期間中に充実した家庭学習支援や、学習活動の重点化など、各学校が学習の定着に向けた工夫に取り組んでいることも考えられるためだ。一方で、授業時数が補充しきれていない学校には「児童生徒の学習の定着を十分確認したうえで、理解が不十分と見られる場合は、授業時数を積極的に確保するよう要請した」という。
一方、主体的・対話的で深い学びの視点での授業、とくに「対話的学び」の授業では、感染症対策として多くのが学校でマスク・フェイスシールド、アクリル板・透明なシート等物理的な対応をしたうえで授業を実施している。ICTを活用(オンライン)して意見を集約し、直接対話せずに対話的学びを行っているという学校は1割程度で、対話的な活動を極力行わないようにしているという学校も3割弱存在することが明らかになった。
おそらく各学校で、それぞれの事情があるだろう。だが、ICTの活用推進が求められ、また新学習指導要領で新たに盛り込まれた対話的な学びでは、児童生徒や先生がさまざまな対話や協働を通じて、思考を広げ深めていくことが期待されている。新しい生活様式と限られた学習環境の中で、子どもたちの学ぶ機会を止めることなく、少しでもその質を向上させる努力がまだまだ必要ではないか。
(注記のない写真はiStock)