一向に改善される気配がない日本のジェンダーギャップ

政府をはじめ企業や社会において女性活躍の推進が叫ばれているが、日本の男女格差は一向に改善していない。今月、世界経済フォーラムが公表した「Global Gender Gap Report 2022」によると、経済・政治・教育・健康の4つの分野を基にしたジェンダーギャップ指数において、日本は146カ国中116位。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中でも韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となった。

OECD(経済協力開発機構)の「図表で見る教育 2021年版」では、日本におけるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に進学する女性の比率は低く、高等教育新規入学者で工学、製造、建築を専攻する人のうち女性が占める割合は16%と、OECD加盟国の中で最下位だ。

また国内の調査においても、文部科学省「令和3年度学校基本調査」を見てみると、大学の分野別入学者に占める女性比率が理学分野30.2%、工学分野15.2%と依然として低い割合にとどまっていることがわかる。

「女性は理系科目が不得意だからでは」などといった固定観念を、いまだに持つ人も少なくないが、PISA(国際学習到達度調査)でも、日本の女子生徒の数学的リテラシーや科学的リテラシーは高いことがわかっている。能力が高いのに、理工学分野における女性人材がなかなか増えないのは、なぜか。企業や社会における意識の醸成や制度などの環境整備が不十分なほか、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)という見えない壁やロールモデルの不在などが考えられる。

そんな中、IT分野におけるジェンダーギャップ解消を目指すスタートアップWaffleや、STEM分野への進学を目指す女子高生向け奨学金制度を立ち上げたメルカリ創業者の山田進太郎氏など、理工学分野を志す女性を増やそうという取り組みが最近増えている。

女性エンジニアが増えることで解決される社会課題は多い

2021年に始まったガールズプログラミングフェス「KIKKAKE」も、その1つだ。主催するのはEdTech企業のアフレルと、GMOメディアが運営するプログラミング教育ポータルサイト「コエテコ byGMO」。「女の子にプログラミングを始めるきっかけを提供する30日間」をコンセプトに、今年も22年6月1日〜30日までの1カ月にわたりオン/オフラインで各種イベントを実施した。

アフレルの女子教育推進責任者・谷口花菜子氏と、GMOメディアで「コエテコ byGMO」の事業責任者を務める沼田直之氏は「IT、プログラミング分野では小中高大から社会人まで、どの階層でも男女比率は8対2とほぼ固定化している」と口をそろえる。

「大学工学部の男女比率も、エンジニアの男女比率もだいたい8対2。これまでのプログラミングスクールには女子好みのコンテンツが少ない傾向があり、8割が男子で埋まる教室に女子が入りにくいなど、圧倒的に女性がITやプログラミングに取り組むきっかけが少ないのが現状です」(谷口氏)

22年3月に「コエテコ byGMO」を通じて民間の子ども向けプログラミング教室に体験申し込みを行ったユーザーのデータ分析の結果で、「プログラミングを習い始める年齢は9歳が最多で、小学生の申し込みが全体の8割以上。 引き続き女の子が2割以下と男女の差が顕著」(沼田氏)ということもあり、2年目となる今年の開催に対する思いは強い。

22年、2回目の開催となったガールズプログラミングフェス「KIKKAKE」。写真は「KIKKAKE」でプログラボによるイベント「回るケーキスタンドをプログラミングして動かそう」の様子

そもそもプログラミング教育に性別は関係ない。20年度に小学校でプログラミング教育が必修化され、21年度から中学校でも内容が拡充、22年度からは高等学校で「情報I」が共通必履修科目となり、25年1月からいよいよ大学入学共通テストでプログラミングを含む「情報」が出題される運びになっている。

この小中高の段階を通じてプログラミング教育を充実させる狙いは、 ICT を日常的に活用することが当たり前で、かつ将来の予測が難しい社会において、生きていくために必要となる資質・能力、つまり情報や情報技術を手段として主体的に活用する力を育むことにある。

「10年後、20年後はITエンジニアでない職種でも、ITリテラシーがあることが前提の社会。そのとき、今の子どもたちがいきいきと活躍するためには、新しい知識や概念を柔軟に吸収できる小中高の段階で、プログラミング教育における成功体験を重ね、自分にもできるのだという自己肯定感を育んでいくことが大切なのです」(谷口氏)

しかも、今後は少子高齢の加速化、生産年齢人口の減少によって、労働力の不足や公共サービスの低下などが懸念されている。経済社会水準の維持のために、ICT、AI、ロボットなどの活用は不可欠で、IT業界を担う人材不足は日本社会の根底を揺るがす一大事だ。

IT人材の不足に関しては、経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(16年6月)で試算した「30年に最大で約 79 万人」という数字がよく引用される。しかし、IT人材を必要とするのは、もはやIT業界だけにとどまらない。

「すべての企業でIT化、DX化が進む今、あらゆる業界でITエンジニアが不足しており、需給ギャップは今後さらに拡大するでしょう。ITエンジニアは男女ともに活躍できる職業です。それなのに、ITエンジニアという職業を選択する女性が少ない、採用する側も結果として男性に偏ってしまうのは、社会にとって大きな損失です」(沼田氏)

女性エンジニア不足が、社会的不利益を及ぼす例は枚挙にいとまがない。有名な話として知られるのは、自動車の設計開発だ。今でこそ自動車メーカーは女性を考慮したものづくりを行っており、衝突安全テストには小柄な女性や妊婦のダミー人形も用いるが、かつては平均的な男性の体格に基づくものだけだったという。

また、最近では企業が採用にAIを導入するケースが増えている。だが、いち早くこのAI採用を導入した米国の巨大テック企業は、これを18年に打ち切った。過去10年間の履歴書のパターンを学習させた結果、男性データのインプットが多くなり、ソフト開発など技術関係の職種採用ではシステムに女性を差別する機械学習の欠陥があることが判明したからだ。

無意識のうちに生じるものの見方、捉え方の偏りは、社会の至る所にある。これに気づき、商品・サービスの質の改善・向上を図っていくためにも、これまでマイノリティーだった女性が開発側に進出する必要がある。「エンジニアの領域で活躍する女性が増えることで、モノづくりの多様性が高まり、私たちの暮らしがもっと快適に、幸せなものになるはず」(谷口氏)だ。

プログラミング教育市場1000億円達成のカギは女子対策

今回の「KIKKAKE」は前回に比べ、イベントページの作りを全体的にカラフルにし、ワークショップのタイトルに「プログラミング」という言葉や、ロボットなどのメカニカルなイメージの強いアイキャッチ画像をできるだけ使わないなどの工夫をしたそうだ。

女の子の「好き」「かわいい」という気持ちを酌んだワークショップが人気を呼んだ。写真は「KIKKAKE」でプログラボによるイベント「回るケーキスタンドをプログラミングして動かそう」の様子

「21年のイベント終了後、女子の興味を引いて多数の参加者を集めたワークショップをはじめ、主催者側に集積されたさまざまなノウハウを、今回参加する事業者にお伝えしています。それを参考にしながら、各スクールで趣向を凝らしたワークショップを実施。中には、女の子の憧れの職業体験をしながらプログラミング的思考を学ぶワークショップを4回開催したところ、合計で400人もの参加者を集めたイベントもあったほどです」(沼田氏)

ほかにも、お笑いタレントがプログラミング講師となって、持ちネタを生かした音楽ゲームを一緒に作る、女性講師がオンラインゲームで参加者のアイスブレイクを図った後、プログラミングを取り入れて自由に創作活動を楽しむ、デコったアイテムをプログラミングで動かす、占いゲームを作るなど、女の子の「好き」「かわいい」という気持ちを酌んだワークショップが人気を呼んだという。

「KIKKAKE」でLITALICOワンダーが開催した「世界に1つだけ!オリジナルデザインのゲームを作ろう」。絵を描いたり、選んだりしてオリジナルデザインに挑戦するとともに、子どものスキルに応じてデザインやプログラミングにも取り組む

もう1つ、保護者向けのセミナーを開催したこともポイントだ。「プログラミング教育に関心のある保護者の皆様は、子どもにとってよりよい将来が開けるような活動を何かさせたいという思いを強く持たれている方が多いです。そこをサポートすることが大切」(谷口氏)と考えているからだ。

22年6月に、「コエテコ byGMO」が船井総合研究所と共同で「プログラミング教育市場規模」を算出したところ、22年の子ども向けプログラミング教育市場は前年比113.2%の199億円となった。この勢いは止まらず、25年に500億円、30年には1000億円超の市場規模に達する可能性があるとしている。

こうした市場への期待感から、さまざまな企業がプログラミング教育事業に参入してきている。だが、その一方で運営がうまくいかないスクールがあるのもまた事実だ。この課題を解決するカギの1つは、やはり女子の参加を促すことにあるといえるのではないだろうか。

(文・田中弘美、写真:「KIKKAKE」提供)