面白く学ぶ、子ども向け動画配信サービス「ラフ&ピース マザー」

「好きな芸人さんは、ゆりやんです。キメ顔が好き。ピアノも英語もうまいけど、とにかく変顔がうまい(笑)」

お笑い芸人は、いつの時代も子どもたちから人気がある。先日「R-1グランプリ」で優勝したゆりやんレトリィバァは、今ではその筆頭だ。そんな人気芸人たちが中心となって、子ども向けに動画を配信するサービス「ラフ&ピース マザー」が3月20日にスタートした。吉本興業ホールディングス(以下、吉本興業)、日本電信電話(以下、NTT)、クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)の3社で立ち上げた株式会社ラフ&ピースマザーが運営するサービスで、“面白く学ぶ”をモットーに作られたさまざまなコンテンツがそろう。

今、子どもに大人気の芸人ゆりやんレトリィバァ

対象としているのは、主に3歳〜12歳の子どもだ。サービス開始を記念して行われたイベントには、冒頭で紹介した“ゆりやんファンの女の子”をはじめとするお笑い芸人好きの子どもたちが、全国からZoomで参加。憧れの人気芸人と共にコンテンツの一部を一緒に楽しんだ。

コンテンツは大きく分けて「ムービー」「アプリ」「オンライン教室」の3つ。お試しプランは「ムービー」と「アプリ」が見放題で月額利用料金500円(税込)、「ムービー」「アプリ」に加えて「オンライン教室」にも参加ができる充実プランは980円(税込)だ。現在は30日間無料お試し視聴をやっているという。

ではコンテンツは、いったいどんな内容なのか。出演タレントは、ゆりやんレトリィバァ、チョコレートプラネット、渡辺直美など実に豪華で、それぞれのキャラクターを活かしたオリジナル動画がそろう。

例えば、麒麟・川島明の「3分で見たくなる世界の名作」では、太宰治の『走れメロス』のような名作を芸人が3分のプレゼンテーションやコントで紹介してくれるコンテンツだ。また、4人の子どもがいるエハラマサヒロが、子ども向けYouTubeチャンネルとコラボした「クマーバチャンネル」×「エハラ家チャンネル」は、小さな子どもが好きな曲を歌って踊って紹介してくれる。ほかにも「ボンボンTV」「HIMAWARIちゃんねる」「はねまりチャンネル」など、人気動画クリエーターとのコラボ動画もあり、現在「ムービー」は約500本、「アプリ」は約20本で、どちらも定期的に追加が予定されている。

記念イベントで紹介された麒麟・川島明の動画コンテンツ「3分で見たくなる世界の名作」

一方、「オンライン教室」は、生配信の参加型サービスだ。段ボール工作ネタで知られる、もう中学生は「みんなで段ボールアートをつくって遊ぼう!」と題したオンライン教室を配信し、満員になるほどの人気になっているという。

今の子どもたちにとって、動画は身近な存在だ。デジタルネイティブだけあって使いこなすのも早く、知らないうちに動画を見ていたということも珍しくない。時計の読み方や九九は動画で覚えたといったようなデジタルならではの便利さがある一方、「動画の見すぎや依存、有害コンテンツを見たりしないか心配」という声は保護者に多い。「ラフ&ピース マザー」では、広告や不適切なコンテンツが表示されないようになっているが、動画の視聴時間は、家庭でルールを決めるなどしてうまく使いたいところだ。

「1人1台端末」後に必要になるソフトウェアとコンテンツ

ちょうど昨年の今頃、日本の小中学校は新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大によって、教育史上例のない一斉休校措置が取られた。長いところで休校は5月末まで続き、教育現場は大混乱となったが、そのとき保護者をはじめ学校、教育関係者が痛感したのがICTの重要性だった。

だが、この3月には公立の小中学校のほとんどで1人に1台の端末整備が完了する。これから対面授業での本格的な活用が始まるが、コロナや自然災害などで学校が臨時休業になった場合も「学びを止めない」インフラがようやく整ったといえる。そして次に必要となるのは、端末上で使うソフトウェアやコンテンツだ。

コロナ休校中も、家庭にある端末を使ってオンライン授業を行った学校があったが、デジタルコンテンツ作りに苦労した先生、自治体は多かった。慣れない動画の撮影、編集に加え、集中力の維持や理解度を高めるには対面授業とは異なる工夫が必要で、自ら教育YouTuberに教えを請う先生もいたほどだ。今、教育の現場では2024年度にデジタル教科書の本格導入が検討されているが、本来の目的である学力向上や個別最適な学びの実現につなげるには内容も含めた検討がまだまだ必要だ。

そうした今後のデジタルコンテンツの活用という意味でも「教育動画」の可能性は大きい。学校教材としてはもちろん、家庭学習においてもYouTubeコンテンツなどは教育格差の解消にもつながると期待されている。いまだ進化を続ける分野とあって、YouTuberや「ラフ&ピース マザー」のような民間企業が手がける「教育動画」にもさまざまなヒントがありそうだ。

吉本興業が教育事業に本格進出

全国で子ども向けワークショップを展開するCANVAS理事長であり、「ラフ&ピース マザー」のアドバイザーを務める石戸奈々子氏は、当初から大事にしたこととして「面白く学ぶ」「自分のやりたいを応援する」「社会全体で学ぶこと」の3つを挙げる。

CANVAS 理事長 石戸奈々子(いしど・ななこ)

「子どもが楽しみながら夢中になっている過程にこそ最高の学びがある」。こう石戸氏が話すとおり、自分のやりたいことを形にしたい、夢を実現したいなど、学びに必要な内的動機に出合えるのはもちろん、あらゆることから学びを得る子どもが学校の枠にとどまらずに学べるプラットフォームを目指したという。

「これからの時代に大切なのは、将来にわたって学び続ける力。学ぶことが楽しいって知っていることが重要で、それに気づかせてくれるサービスだと思います。プログラミングの必修化やSTEAM教育に注目が集まるなど、子どもたちが学ぶ内容や方法が変わる中で、『ラフ&ピース マザー』が日本発で最先端の学びのあり方を提示してほしい」と石戸氏は話す。

吉本興業も本気だ。今後、「ラフ&ピース マザー」は多言語対応による海外展開を目指している。

前述のとおり「ラフ&ピース マザー」を運営する株式会社ラフ&ピースマザーには、情報通信技術を担うパートナーであるNTTのほかに、クールジャパン機構も出資をしている。クールジャパン機構は、日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓を支援するファンドで、今回「日本発の良質な教育等コンテンツを日本国内およびアジアを中心とした海外に展開する国産のプラットフォーム事業」に投資。教育動画の配信を通じて次世代に多くの日本ファンをつくること、インバウンドの促進につなげる考えだ。

一方、吉本興業も、お笑いをはじめとする日本のエンターテインメントをアジアそして世界へ広めようとグローバル展開に注力してきた。現在、海外に8拠点を展開し、イベント開催や番組制作などを行っている。こうした海外展開においても、日本発の教育動画配信プラットフォーム「ラフ&ピース マザー」は、大きな足がかりとなるかもしれない。教育とエンターテインメントを融合した最先端の学びを示せるか。今後も注目していきたい。

(撮影:梅谷秀司)