「メルカリ」カリスマ創業者が仕掛ける「奨学金」
メルカリCEOの山田進太郎氏が立ち上げた奨学金制度である「山田進太郎D&I財団 STEM(理系)女子高校生奨学金」は、今年9月30日までをエントリー期間としている。
支給額は国公立進学者で年間25万円、私立進学者で同50万円を想定しており、採用数については、初年度は最大100名程度。支給対象となるのは2022年4月に高等学校入学予定の女子で、日本国内の高等学校理数科、令和3年度スーパーサイエンスハイスクール指定高等学校、または高等専門学校の入学予定者(なお中学校からの内部進学者は除く)となる。
山田氏は国内の著名起業家の1人だ。早稲田大学を卒業後、ウノウを設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネットサービスを立ち上げ、10年にウノウをZyngaに売却。同社を12年に退社後、世界一周を経て、13年2月メルカリを創業した。フリマアプリを軸に業績を伸ばし、18年6月に東証マザーズに上場し、現在に至っている。同社では外国籍のエンジニアが半数を占めるなど、山田氏はシリコンバレーの著名企業とのグローバル競争を意識した経営姿勢を貫く。
山田氏が設立した一般財団法人山田進太郎D&I財団の「D&I」とは、「ダイバーシティ&インクルージョン」のことで、性別・年齢・人種・宗教などにかかわらず、お互いを尊重し、誰もが自身の持つ能力を発揮し、活躍できる状態を意味し、今後D&Iを日本国内で積極的に推進していくという山田氏の願いが込められている。
実際、メルカリではこれまでも外国籍エンジニアの積極採用のほか、D&I Councilの設立、ジェンダーマイノリティー向けエンジニア育成プログラム(Build@Mercari)の実施、無意識バイアスワークショップの研修資料公開などD&Iへの取り組みを行ってきた。
こうした取り組みの中で、大きな課題となっていたのが国内の女性エンジニア比率が20%にとどまるなど、ジェンダーギャップの改善が非常に難しい状態にあることだった。その比率はOECD諸国と比べても非常に低く、日本は最低のポジション。この課題を解決するためには、中学・高校時点でSTEMの女性比率を高めることが不可欠だと判断した。その実現には、営利の範囲を超え非営利活動として行う必要があるため、自分の資産を社会に還元していく手段として、今回財団を設立したと山田氏は語る。
「D&Iは個人的に課題を感じている分野であり、個人的なライフワークとして取り組む方針で、ジェンダーギャップもその1つといえます。財団としては中長期的に30億円以上を投じる予定であり、その第1弾がSTEM女子高校生奨学金となるのです」
日本のSTEM分野には、なぜ女性が少ないのか
では、そもそもなぜ日本国内ではSTEMを選ぶ女性が少ないのだろうか。その理由としては、お金の問題のほかに、親や教員など周囲からの反対、社会での理系女子のロールモデルの少なさ、理系科目の先生に男性が多い、同級生の多くが文系を選択することなどが挙げられる。こうした事情が女性のSTEM進出のハードルとなっているのだ。
「しかし、もし多くの女性がSTEM分野へ進めば、科学技術の発展が促されることに加え、女性の給料も高くなり、リモートワークや産休・育休が取りやすくなるなど柔軟な働き方が可能となります。また、成果を測りやすいので能力がきちんと評価されるため、女性が社会で活躍し認められる機会が増えていくというメリットが生まれるのです」
山田氏の財団では、大学入学者におけるSTEMの女性比率を21年度の18%から35年度には28%に引き上げることを目標として掲げている。そのため、奨学金制度の運用に当たっては3つの戦術を立てている。
まず1つ目が、オンラインの活用だ。応募・選考・支給などプロセスを極力オンライン化することで、効率化を図り、今後は常時1000名以上への支給を目指す。2年目以降はソーシャルメディアやオンラインコミュニティー、クラウドファンディングなども活用していく。
2つ目は、抽選による選考だ。財団の目標を達成するにはSTEMを選択する女性を1学年当たり約1万1000人に増やす必要がある。より多くの女子に興味を持ってもらうためには、迷っている人でも気軽に応募できるように、選考も能力主義とせず抽選とする。
同じく奨学金を提供するソフトバンクの孫正義育英財団やユニクロの柳井正財団では能力や成績についての厳しい審査によって支給が決定されるが、その点、山田氏の財団では広く応募者を募ることで、“STEM女子”を社会的ムーブメントにしていく狙いがある。
そして、3つ目が、STEM分野で活躍している女性を知ってもらうことだ。いわば、自分の将来のロールモデルとなる人物を見つけることで、STEMをリアリティーのある選択肢として考えてもらうのだ。8月22日には、その第1弾として各界で活躍する女性たちが登場する学生向けオンラインイベントが実施された。
同財団では、9月30日のエントリー締め切り後、10月~11月にかけて募集内容に合っているかを確認するための書類選考を行い、そのうえで2次選考と抽選を経て奨学金内定者、最大100名程度を選出する。その後、内定者は受験を経て、合格通知を提出すれば22年4月から奨学金が支給される流れとなっている。
広く門戸が開かれた「山田進太郎D&I財団 STEM女子高校生奨学金」。興味のある方はぜひ応募してみてはいかがだろうか。
(注記のない写真はiStock)