「THE世界大学ランキング」100位以内は東大、京大のみ

指定国立大学法人制度は、大学における教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るため、2017年に国立大学法人法の改正によって創設された。指定を受けると、研究成果の活用を促進するための出資対象が広がるほか、国際的に卓越した人材を確保する際に給与基準を柔軟に設定できたり、余裕資金の運用がしやすくなったりする。

だが、指定の条件は厳しく「研究力」「社会との連携」「国際協働」の3つの領域において、国内トップレベルに位置していることが求められる。「研究力」とは、科学研究費助成事業の新規採択件数や注目度の高い論文数の割合、「社会との連携」は受託・共同研究収益や寄付金収益、特許権実施等収入の割合、「国際協働」は国際共著論文比率や留学生および日本人派遣学生の割合を指す。

こうした制度創設の背景には、日本の大学が世界的な競争にさらされており、競争力を高めることが急務になっていることがある。

実際、英国の高等教育専門誌『Times Higher Education』「THE世界大学ランキング2021」を見てみると、トップ10にオックスフォード大学(英)、スタンフォード大学(米)、ハーバード大学(米)、カリフォルニア工科大学(米)、マサチューセッツ工科大学(米)など英米の大学がズラリと並び、日本の大学では36位に東京大学、54位に京都大学がランキングされるのみ。そのほか100位以内に日本の大学は見当たらない。

指定国立大学法人に選ばれるのは狭き門 

これまで指定国立大学法人に指定されたのは、17年6月に東北大学、東京大学、京都大学、18年3月に東京工業大学、名古屋大学、同10月に大阪大学、19年に一橋大学が選ばれている。今回の指定を受けて、筑波大学 学長の永田恭介氏はこうコメントしている。

「筑波大学は、欧米の先進的な大学をモデルに、世界水準を目指した新構想大学として、わが国最大のサイエンスシティーである筑波研究学園都市に生まれました。高い国際性と学際性というレガシーを背景に、未来社会をデザインできる新たな知を創出する『真の総合大学』として、分野の壁を超えた研究、世界に先駆けた教育のモデル、筑波研究学園都市の立地を活かした産学連携などを実践してまいります。こうした取り組みを通じて、ポストコロナ時代を見据え、未来社会の基盤としてGLOBAL TRUSTを標榜する新たな価値の創造に取り組みます。

今般の指定は、国立大学改革を先導する役割が改めて本学に期待されたことを意味します。この期待に応えることが、わが国の高等教育、ひいてはわが国の発展の原動力となると確信しています。全世界が協働と競合の舞台であることを自覚し、大学の構成員が一丸となって構想の実現に取り組んでまいりますので、いっそうのご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます」

今回の第4期中期目標期間の指定国立大学法人制度については筑波大学、東京医科歯科大学、九州大学の3校から申請があったが、九州大学は指定に至らなかった。

筑波大学の選定理由については、戦前の東京高等師範学校に由来する教育研究組織の特徴を生かし、国境・組織の壁を超える人材育成と学問分野の壁を超える研究力強化に挑戦することで、「地球規模の課題を解決する『真の総合大学』」として世界最高水準の教育研究を行う大学を目指していること。また、国際水準の研究推進、デザイン思考を涵養するための全学的なチュートリアル教育の展開、企業の研究部門と一体化した「B2A(Business to Academia)研究所」の設置などが計画されていて、大学の目指すべき方向性やその取り組みが全学的に浸透していることが評価された。

一方、東京医科歯科大学 学長の田中雄二郎氏は、こうコメントしている。

「本学の指定国立大学法人構想では、長期的視点における世界的・社会的課題を『世代を超えた人類のトータル・ヘルスケア』の実現に設定し、『知と癒やしの匠』の創造による世界屈指のヘルスケア・サイエンス拠点の形成を目標に掲げています。急速な進歩と変革の時代の中で、本学の特徴と優位性を生かし、10年後、そしてそれ以降も継続してたゆみない進化を遂げる世界レベルの卓越した大学を実現するため、本学が実行する大胆かつ計画的な改革への取り組みにご注目ください」

東京医科歯科大学の選定理由については、国立大学で唯一の医療系総合大学として、「世代を超えて地球・人類の『トータル・ヘルスケア』を実現する」ことを目指しており、世界をリードするClinician Scientistを育成するための学部・研究科を通じたシームレスな人材育成システムの構築、医学領域と口腔科学領域を融合した「トータル・ヘルスケア」を実現する世界的研究拠点の形成などが計画されていて、指定国立大学法人としての実現の道筋が明確になっていることが評価された。

審査については、外国人有識者を含む外部有識者15名からなる委員会による書面審査、ヒアリング審査、現地視察によって行われた。審査基準としては、自らの強みと弱みの分析が的確に行われているか、分析を踏まえ、指定国立大学法人としてどのようなことに挑戦し、大学として新しいステージを目指すのか、構想を実現するための道筋が明確になっているか、といった観点から審査が行われた。

今回の審査では結果的に旧帝大の一角を占める九州大学が選定から漏れるなど、指定国立大学法人に選ばれるのは非常に狭き門となっている。審査に当たった国立大学法人評価委員会 国立大学法人分科会 指定国立大学法人 部会長の相澤益男氏(東京工業大学名誉教授)は次のようにコメントしている。

「筑波大学、東京医科歯科大学については、現状にとどまることなく、構想の実現に向けて全学を挙げて尽力いただき、指定国立大学法人として、わが国社会、ひいては国際社会の発展とイノベーションの創出に貢献する大学に躍進していくことを求めます。また、九州大学については、その実力やポテンシャルは十分承知しているところであり、今後、自らの強みと弱みを改めて検討し、第4期に向けて目指す大学のビジョンを再構築していただくことを期待しています」

指定国立大学法人制度は、実際のメリットはあまりないなどの声もあるが、今後さらなる規制緩和や財源の多様化なども議論されている。

(写真:iStock)