重要なカギを握る、新学習指導要領の実践

これからの社会の変化を精緻に予測することは難しい。そうした中で、教育には何が求められているのだろうか。「中間まとめ」では、一人ひとりの児童生徒が、自分のよさや可能性を認識する、あらゆる他者を価値のある存在として尊重する、そして、多様な人々と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越えて豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会のつくり手となることができるよう、その資質や能力を育成すること、としている。

具体的には、読解力、自分の頭で考えて表現する力、対話や協働を通じて新しい解を生み出す力を挙げている。一方、いつの時代にも重要なこととして、豊かな情操や規範意識、自他の生命の尊重、自己肯定感、他者への思いやりなどを列挙。経済協力開発機構(OECD)が2019年5月に発表した「Learning Compass 2030」でも、子どもたちが社会を変革していくために自ら主体的に目標を設定し、振り返りながら、責任ある行動が取れる力の重要性が指摘されている。

こうした問題意識は、新学習指導要領につながる文脈と重なり合う。すでに、私たちは新型コロナウイルス感染症によって、これまで経験したことのない事態に直面しているとも言えるだろう。「中間まとめ」でも、私たち一人ひとり、そして社会全体が、答えのない問いにどう立ち向かうのかが問われていると指摘。解決すべき課題を見いだし、主体的に考え、多様な立場の者が協働的に議論して納得解を生み出すことなど、まさに新学習指導要領で育成を目指す資質や能力がいっそう強く求められていると、強調している。

ICTについては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって社会のデジタル化やオンライン化が促進されている中で、学校教育も学びを保障する手段としてのオンライン教育に大きな注目が集まっているとの認識を示し、これからの学校教育を支える基盤的なツールとして、ICTは必要不可欠と論じている。

GIGAスクール構想を進めながら新学習指導要領を実践していく際、従来の「正解主義」や「同調圧力」への偏りからの脱却を説く一方で、これまでの日本型学校教育が実践してきた、子どもたちの思考を深める「発問」の重視、子どもたちの多様性と向き合いながらチームとしての学びに高めていく、という強みを最大限に生かしていくことが重要であると指摘。誰一人取り残すことのない、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け、ツールとしてのICTを基盤とした学校教育を「令和の日本型学校教育」と名付け、目指すべき方向性を社会と共有したいと続けている。

「令和の日本型学校教育」が目指す学びとは

「令和の日本型学校教育」で子どもの学びのパートを見ると、多様化が進む子どもたちすべてに基礎的・基本的な知識・技能などを確実に修得させるためには、専門性の高い教師がより支援が必要な児童生徒により重点的な指導を行う必要性を指摘。子どもたち一人ひとりの特性や学習進度などに応じ、指導方法や学習時間などを柔軟に設定するとともに、子どもたちが自らの学習状況を把握し、調整しながら粘り強く学習に取り組む態度を育成する、「指導の個別化」が欠かせないとしている。

また、基本的な知識や情報活用能力といった資質や能力を土台として、専門性の高い教師が個々の子どもに応じた学習活動を提供することで、主体的に学習を最適化する「学習の個性化」も重要だ。これら、「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」、学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」とまとめている。

また、学校ならではの協働的な学び合いや、地域をはじめ多様な他者と協働して主体的に実社会の課題を解決しようとする探究的な学び、体験活動などを通じた「協働的な学び」が重要なことは言うまでもない。異学年間の学びやほかの学校の子どもたちとの学び合いも含む「協働的な学び」については、ICTの活用により空間的かつ時間的制約を超えて発展させることも可能だろう。もちろん、人間同士のリアルな関係づくりや体験の重要性は、 Society 5.0時代にこそいっそう高まると指摘。「中間まとめ」では、「令和の日本型学校教育」で目指すべき学びを、多様な子どもたちの資質・能力を育成するための、個別最適な学びと、社会とつながる協働的な学びの実現、と結論づけている。

(写真:iStock)